MITの名物講座「ほぼ、なんでも作る方法」が起こす世界革命 〜ファブラボの父、ニール・ガーシェンフェルドが語る

トピックス 2012.10.30
 デジタル革命は、一体どこに向かうのでしょうか。1980年代初頭に、米IBMがはじめてパーソーナルコンピューターを発売しました。そして、個人がインターネットを通して世界とつながることができるようになり、人々の世界は広がりました。最近でもスマートフォン、タブレットと、PCから新しい情報端末へと変わりつつありますが、この地球規模でのネットワークの実現というデジタル革命の流れは脈々と引き継がれています。

 しかし、あらゆる日用品に電子機器が組み込まれ、モノとモノ同士がネットワークでつながっているいま、アトム(原子)とビット(コンピュータが扱うデータの最小単位)の境目があいまいになっています。デジタルはモノと出会い、新たな段階へと歩を進めつつあるのです。

 MITビット・アンド・アトムズセンター所長のニール・ガーシェンフェルドは、TED TALKで、自然科学とコンピューター科学の融合、そしてアトムとビッドの世界の越境の可能性について語っています。彼は、デジタルファブリケーション(デジタルを媒介にしたもの作り)のラボラトリー(工房)、通称ファブラボの生みの親ともいえる人物で、MITで"how to make almost anything"(ほぼ、なんでも作る方法)という名物講義を担当しています。世界各地でファブラボの活動を広め、最先端のもの作り教育を行っているガーシェンフェルドの「デジタル革命の未来」とは?

■TED TALK ニール・ガーシェンフェルド ファブラボ(つくりかたの未来)
※日本語の字幕、スクリプトも用意されているので、とても便利。

パーソナライズファブリケーション時代の到来

 トークの冒頭で、ガーシェンフェルドは、デジタル革命について次のように述べています。

「私は革命は既に終わり、成功したと思っています。デジタル革命は起こりましたが、そこにとどまる必要はありません。その先に目を向けて、その後に何が来るのか考えてみたいのです。」

 ガーシェンフェルドが思い描くのは、デジタルを中心にした、アトムの世界の革命です。いまや、ラップトップコンピューターさえあれば、誰でもモノの設計図を作成出来ます。そして、3Dプリンター、レーザーカッターなどの機器を駆使することで、そうした設計図をもとに、モノを製造することが可能となりました。しかも、こうした機器の購入コストは徐々に下がっており、われわれの想像以上に、もの作りへのハードルは低くなっています。新たな革命への準備は着々と進みつつあります。

 しかし、デジタルを媒介にしたもの作りは、なぜ魅力的なのでしょうか。ガーシェンフェルドは、2つの考えを示しています。


    1. 地域の問題を現地で解決可能にする。
    2. 個人の自己表現を格段に飛躍させる。



 発展途上国をみてみると、これまでの地域の問題解決は、先進国にある大企業からの技術の受け渡しでなされていました。しかし、デジタルなもの作りによって、地域の人々自身の手で、その土地の問題に取り組むことが出来ます。地域の問題に対して全世界の発明力を活用し、現地でモノをデザインし、製造して、解決策を生み出せるのです。これらのことにより、地域の人々が継続的かつ、主体的に問題に取り組むことができるので、問題の本質的な解決につながっていきます。

 また、ガーシェンフェルドはデジタルファブリケーションが人々を虜にする理由を、一人のためのもの作りを可能にすることだと述べています。コンピューティングがビットからアトムの領域に進出することで、いままでのテクノロジーでは考えることが出来なかった、たくさんの人々のアイデアをかたちにすることが出来ます。個人による、個人のためのもの作り。これが人々を夢中にさせるのです。

 個人が、それぞれのニーズに応えるモノを作ることができる。まさに、パーソナライズファブリケーションの時代がいま、やって来たのです。

参考:Make:Japan/Foreign Affairs誌より─ニール・ガーシェンフェルドの「ほぼ、なんでも作る方法」
TEXT BY KEI AMANO

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