イケダハヤトさんに聞く! 「3Dプリンタから考える非貨幣経済論~もの作りで人はやさしくなれる」 【完結編】

インタビュー 2012.11.21
 これまでの2回はイケダさんに3Dプリンタの魅力、そして、それが可能にするわれわれの豊かな生活のビジョンをお伺いした。
 最終回である今回は、自分たちで自分のものを作ることの本質とは何か、そして、自分が作ったプロダクトをどのように人々と分かち合っていけばよいのか、ということについてお伺いする。

イケダハヤト

1986年生まれ。ブロガー、ihayato.news編集長。「テントセン」co-founder。NPO支援、執筆活動などを行うかたわら、企業のソーシャルメディア運用のアドバイザリーも務める。著書に『フェイスブック 私たちの生き方とビジネスはこう変わる』(講談社)『ソーシャルコマース 業界キーマン12人が語る、ソーシャルメディア時代のショッピングと企業戦略』(共著、マイナビ)など。近著に『年収150万円で僕らは自由に生きていく』(星海社新書)がある。

イケダハヤト氏
 自分でものを作ることの意義って、どんなところにあると思いますか。
 やはり、自分たちでものを作ると人間ってやさしくなれると思うんです。
 えっ! どういうことですか。
 いま、生産者と消費者の距離が遠くなってしまいます。そのせいで、クレーマーやモンスター消費者という言葉にも示されるような、生産者と消費者のディスコミュニケーションが生まれていると考えています。自分たちが作り手にならないと、その差は埋まらないと思うんです。
 たとえば、実際に自分で野菜を育てた経験があれば、多少きゅうりが曲がっていても、許せるでしょう。まっすぐなきゅうりを作ることが、どれくらい大変なのかは分かるわけですから。育てている環境も想像することができるので、ちょっと虫がついても気にならなくなるでしょうし。

 自分でものを作った経験があれば、商品に対する許容範囲が広がるはずです。そういう部分が高度経済成長の大量生産・大量消費によって、分断されてしまったポイントなのでしょうね。僕らは消費者マインドに凝り固まってしまって、生産者の気持ちが分からなくなってしまった。一方で、生産者も消費者のことを蔑むようになってしまった。

 『MAKERS』の思想って、生産者と消費者の距離を縮めて、僕らひとりひとりを生産者にすることだと思います。だから、僕はこのムーブメントが進むと人がやさしくなれるのではないかと思うんですよね。誰かがプロダクトを前にして、「商品のとがった部分で怪我したらどうするんだ」というクレームに対しても、「そんなのやすりで削ればいいじゃん」、「バリなんか、はがしちゃえばいいじゃん」って言えますし(笑)。
 なるほど! とても斬新な視点ですね!! 最後に、これからのメイカーは、どのように人々とコミュニケーションをして商品をプロモーションしていけば良いのでしょうか。
 やはり僕らって、ストーリーがある商品が凄く好きなんです。だから、商品を開発するに至った、自分なりの問題意識とストーリーを大事にしてもらいたいです。
 たとえば、僕はマザーハウスというブランドのバックを愛用しています。これはバングラデッシュの布を使ったバッグです。この商品を購入することで、バングラデシュにお金が渡り、貧困問題も解決できるんです。もちろん、質も良くて、頑丈です。僕のまわりの、特に社会貢献意識の強い人々の間で、凄い人気があるんです。社会貢献系のイベントいくと大体、男子はマザーハウスのバッグを持っています。
 マザーハウスの社長の山口絵理子さんには『裸でも生きる』(講談社)という著書があります。この本を読むと大抵の人は、マザーハウスのファンになってしまいます。みんな彼女の問題意識と取り組みに共感して、自分も商品を購入して活動にコミットしたいと駆り立てられてしまう。それくらいマザーハウスのプロダクト開発のストーリーって、魅力的なんですよね。

 ここには商品の購入にプラスαとして、参加や応援の要素があるじゃないですか。その部分の面白さが本質的な価値になるのではないかと考えています。
 僕にとって普通のバッグとマザーハウスのバッグとでは、意味の重みが全く異なります。多分、マザーハウスのものであれば多少質は悪くても(実際にはとても、ものは良いのですが)、気にならないと思うんですよね。一緒にこのブランドを育てていきたい、と心から思っていますので。
 ストーリーはさまざまなかたちでデザインすることが出来ると思いますが、なぜ自分はそのプロダクトを作ろうと思ったのか、プロダクトを通して社会のどこを善くしていきたいのか、問題意識をクリアにしておくべきです。そこに強い思いがあると、勝手にストーリーが生まれるはずですから。

 大量生産・大量消費の時代が、消費者と生産者を分離し、ストーリーの文脈を全て剥奪してしまいました。企業で製品を作った人は、商品の説明のときに、まず製品の話をしてしまう。そこに至るまで、本来持っていたはずの問題意識ではなく、完成された製品の機能を説明してしまうんです。

 でも、本当に重要なのは、なぜその商品をつくったのかということです。そのストーリーに共感を呼ぶことができれば、内容なんて見ずに買ってしまう消費者だっています。ちゃんとした問題意識があって開発したプロダクトなら、なぜそれを作ったのかはっきりさせておくべきです。
 その人なりの問題意識がにじみ出てくるプロダクトは、人から愛され、結果的にはビジネスでも成功するはずですよ。
 イケダさん、ありがとうございました!! 問題意識やストーリーが人々の共感を呼ぶというお話は目の覚めるような、もの作りについての本質的なお話でした。ものづくりで人はやさしくなれる。僕も高い理想をもって、取り組んでいきます!

― 完 ―

TEXT BY KEI AMANO

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