僕らのFabLife!~MAKER MOVEMENTにみるソーシャルファブリケーションという未来 田中浩也×イケダハヤト 【前編】

インタビュー 2012.12.21
 MAKER MOVEMENTにどのような未来を思い描くのか――。新しいテクノロジーを前にして、どのような物語を紡ぎ出すのかは、きっと僕ら自身の課題となるだろう。

 11月22日~23日、ORF2012という慶應義塾大学SFC研究所が主催するイベントが開催された。ORFは一般向けに慶應義塾大学SFCの研究成果を紹介するイベントである。その一環として、「Open Reading Forum」という、教員が自著を語る企画があり、田中浩也准教授が今年6月に著した『FabLife ―デジタルファブリケーションから生まれる「つくりかたの未来」』(オライリージャパン)にまつわるトークセッションが行われた。

 FabLab 鎌倉も切り盛りしている田中氏が対談相手に選んだのはブロガーのイケダハヤト氏、それは本サイトに掲載したイケダ氏のインタビューを読んだからだという。二人はMAKER MOVEMENTのどこに可能性を見出すのか。

 2人のトークはイケダ氏の『FabLife』についての感想から始まった。

(2012年11月22日 於 東京ミッドタウン)

※記事は全2回掲載予定。

プロフィール

田中浩也(タナカヒロヤ)
1975年生まれ、慶應義塾大学環境情報学部准教授。2010年米マサチューセッツ工科大学(MIT)建築学科客員研究員。経済産業省未踏ソフトウェア開発支援事業・天才プログラマースーパークリエイター賞(2003)、グッドデザイン賞新領域部門など受賞多数。著書に『FabLife ―デジタルファブリケーションから生まれる「つくりかたの未来」』(オライリージャパン)監修に『Fab -パーソナルコンピュータからパーソナルファブリケーションへ(オライリージャパン)」など。新しいものづくりの世界的ネットワークであるFabLabの日本における発起人であり、2011年には鎌倉市に拠点FabLab Kamakuraを開設した。

イケダハヤト
1986年生まれ。ブロガー、ihayato.news編集長。「テントセン」co-founder。NPO支援、執筆活動などを行うかたわら、企業のソーシャルメディア運用のアドバイザリーも務める。著書に『フェイスブック 私たちの生き方とビジネスはこう変わる』(講談社)『ソーシャルコマース 業界キーマン12人が語る、ソーシャルメディア時代のショッピングと企業戦略』(共著、マイナビ)など。新刊に『年収150万円で僕らは自由に生きていく』(星海社新書)がある。

右から田中浩也氏、イケダハヤト氏、司会NHK出版 天野


――イケダさん、『FabLife』をお読みになって、いかがでしたか。

イケダ  僕は年間400冊くらい本を読んでいます。ちょうど今、自分のブログで紹介するために、今年面白かった本10冊をピックアップしていますが、『FabLife』は、そのうちの1冊に入るほど、素晴らしい本でした。田中先生の前だから言うのではありませんが、僕は会う人みんなに「面白いから、絶対読んで!」と薦めています。

田中  ありがとうございます。

イケダ  本書の中で特に興味深いと思ったのが、アフガニスタンのFabLabの話です。
 アフガニスタンのFabLabではWifiのアンテナを作っています。その様子をみたFabLabの周辺に住んでいる人々が「私も欲しい」「私も欲しい」と、どんどん集まってきて、素材をそれぞれが持ち寄って、自らWifiのアンテナを生産していく姿が描かれています。欲しいものを自分で生産して、自分で消費していくことがとても新鮮に思えました。

 最近、『年収150万円で僕らは自由に生きていく』(星海社)という本を書きました。これからの日本では経済成長があまり見込めません。現在の大量生産・大量消費の社会は厳しいのではないか、と感じています。だから、人々が必要なものを必要な分だけ作り使っていくという適量生産・適量消費の、低コスト社会をいかに生きていくかということについて、自分なりの考えを記してみました。僕の本のタイトルではありませんが、デジタルファブリケーションによって、生活がもっと低コストにすることができるのではないか、と期待しております。わざわざ商品を買いに行かなくても良いですし、流通などの中抜きによって、コストが上積みされることもなくなるからです。
 『FabLife』で記されていた、低コストで、豊かに、そして自由に暮らしていく人々の姿に惹きつけられました。



田中  この適量生産・適量消費という点に着目していただいたのは、FabLifeの書評としては、おそらく初めてで、とても嬉しいです。

 適量生産・適量消費という言葉を知るきっかけとなった、僕が初めて訪れたインドのFabLabの写真をお見せしますね。ここに、レーザーカッターや3Dプリンタなどのあらゆる工作機械が揃っています。


FabLabインド① 肉を日光で焼くためのソーラークッカー



FabLabインド② この中にデジタル工作機械が設置されている



FabLabインド③ 表通りから見たFabLab


イケダ  面白いですね。デジタルファブリケーションの文化が独特なかたちで受容されています。インドのFabLabはどのような場所にあるのでしょうか。

田中  このインドのFabLabは、水道も整備されていない、人口200人くらいの小さな村にあります。
 このFabLabでは、超音波を発信して犬を撃退する装置とか、肉を日光で焼くためのソーラークッカーなどをつくっています。ハイテク自給生活と言いますか、テクノロジーと実際の生活を究極的に結びつけた活動を行っています。超音波を発信して犬を撃退する装置って、すごいですよね(笑)。

イケダ  ちょっと、びっくりしますね。

田中  僕自身、FabLabという存在を知ったのが2008年ころでしたが、最初に訪問したFabLabがこのインドでした。僕もかなり衝撃を受けました。いままで日本で生活していたのとは、全く別の価値観の世界を知りました。日本で実現できるかどうかはともかく、このような新しい生活文化とテクノロジーの新しい結びつきが世界で起こっていると知って、驚きました。「インドにいくと人生観が変わる」とは良く言われますが、僕の人生もこれ以後、本当に変わってしまいました。
 しかも、彼らは挑戦的なことを言っていました。「自分たちは日本や欧米のような道筋を辿るつもりはない」と。最初から必要な人が必要な量だけ作る、自給自足の適量生産で、どこまで近代化できるか頑張る、と語っていました。ガンジーの言葉(「大量生産から大衆による生産へ」)が生きていますね。

イケダ  先進国とは全く別の角度から、デジタルファブリケーションを捉えていますね。

田中  そうですね。普通私たちは、途上国はそれまで先進国が辿ってきた道を遅れて辿るのだと思いがちです。しかし、別の可能性があるのかもしれないとインドのFabLabで知りました。発展途上国の生活がテクノロジーと結びついて、地域の問題を地域で解決していく姿には、むしろ今とは異なる未来、今とは違う想像力のあり方を感じます。
 僕のFabLab体験は、そこからスタートしているので、イケダさんの読みはとても、ありがたく思いました。

イケダ  そこまで言われると、恐縮です(笑)

 さらにもう一点『FabLife』を読んでいて興味を覚えたのは、本の中で記されているデジタルファブリケーションによって「何でも作れるから、仕事も作れる」という言葉です。

田中  そこですか。

デジタルファブリケーションと雇用


イケダ  デジタルファブリケーションと仕事については、さまざまな論点があると思いますが、もの作りをデジタルファブリケーションに代替することよって、失われる仕事が出てくる可能性があるわけじゃないですか。たとえば、いま町工場で仕事をしている人の仕事がなくなってしまうかもしれません。ただ一方で、新しい仕事が生まれてくるかもしれません。なくなる産業もあれば、これから出てくる産業もあるのでは、と思います。『FabLife』の中で、デジタルファブリケーションによって、創出される雇用について、あまり記されていなかったので、ぜひこの点はお伺いしたいです。

田中  まず、「仕事も作れる」という言葉は、FabLab鎌倉の現マネージャーの渡辺ゆうかの言葉なんです。彼女の仕事は後ほど紹介するとして、今の状況を僕はインターネットの初期と似ているのではないかと感じています。15年くらい前のインターネット初期の時代には、新聞やテレビなどの大きなメディアは消滅すると極端な主張をしていた論者がいました。でも、結局15年経っても、大きなメディアは独自の役割を保ちつつ、当然残っています。インターネットというメディアが大きなメディアに取って変わったのではなく、そのオルタナティブとして、それぞれ別々の役割を持ちながら、ともに共存し社会に根付いたのだと思います。
 クリス・アンダーソンは『MAKERS』でも、大量生産や大企業がなくなることはないということは強調しています。デジタルファブリケーションによって、個人の生き方の選択肢が広がるということが綴られているはずです。最近、さまざまにMAKER MOVEMENTが話題となっていますが、その点が正確に伝わっていないのでは、と思う瞬間は多いですね。「あれがこれを滅ぼす」的な、単純化した間違った誇張が過ぎるのではないでしょうか。僕はむしろ「つくる仕事」は無くならないのではと思っています。

イケダ  雇用の創出という面ではいかがですか。

田中  アメリカの例でお話すると、実はオバマ大統領が全米の小学校にMakerSpaceやFabLabのような場を導入すると宣言をしています。今後3年間のうちに1000箇所を作る計画を立てているようです。

 米国で言われているのは、「今の小学生のうちの65%は今の世の中に存在しない職業に就く」ということです。つまり、今まで僕らがメニューとして、社会に用意されてきた職業の中どれかに就くのではなくて、今は存在していない職業が未来にうみだされるということです。
 そういう未来を見越して、たとえばスティーブ・ジョブズのような、ソフトとハードを両方とも一緒に考えられるような人材の育成に取り組もうとしています。現在、どうしてもソフトウェアとハードウェアは分業になりがちですが、小学生の教育から長い目で考えようとしています。
 大きな変化がアメリカでは起こっています。そんな状況も考え合わせつつ、FabLab鎌倉でも、「小学校、中学校向けの教育事業を考え始めたいね」と議論を進めています。そこでは、英語とものづくりを組み合わせた新しいカリキュラムを構想しています。

 教育によって、まず新しいスキルをもった人があらわれて、その人が新しい仕事をつくり、それが新しい産業となっていくという順序で、じわじわと下から変化が進んでいくのではないかと思いますね。そして、それは従来の製造業を侵食するのではなくて、これまでなかった別のマーケットを開拓すると思うんですよね。雇用の創出については、短期ではなく、中長期で考える必要があると思っています。


田中浩也氏


イケダ  3Dプリンタが、普及したときに生まれる職業って、どのようなものがありうるでしょうか。PC一台さえあれば、3Dデータを作ることが出来ますので、プロダクトデザイナーなどはイメージできますが、ほかにどのような職業をお考えですか。

田中  ファシリテーター的な存在が求められると思います。僕もFabLabの活動の中で気づいたのですが、結局3Dプリンタというツールだけあっても、もの作りって始まりません。ものを作るための理由や動機や必然性が個人の心の中になければ、3Dプリンタを渡されて、いざ「もの作りにチャレンジしよう」と思った人でも、きっとすぐに飽きてしまいます。ただ一方で、ものを作るための理由や動機は、一見自分はそうではないと思っている人も意外と心の奥底にしまっているだけで、本人は気づいていなくても生得的に持っていたりすることが多いと思うんです。そして結局、必要なのは、「なにを」「なぜ」つくるのか、という部分です。そうしたことを、ともに考え、ストーリーを紡いで並走する人の存在が必要だと思います。これは同時に、先進国のFabLabならではの可能性でもあると思うんです。
 僕はまだ、ファブリケーションのファシリテーター的な存在を何と呼んだら良いのか分かりませんが、バーのマスターのような感じかもしれませんし、街のお医者さんのような感じかもしれませんし、銀座のママのようなものかもしれません。

ものを作る動機と理由


イケダ  僕の家には、まだ3Dプリンタがありませんが、それがない理由って、何かものを作る理由がないからだと、改めて気づきました。きっと、デジタル工作機械をうまく使って積極的にものを作っている人は、理由や動機が明確になっているのではないかと思います。それが自分の生活スタイルと結びついていれば、自分だけのガジェットを作ったりしますし、事業企画というストーリーを描くことができれば、何か商売を始めたりということになるでしょう。
 特にビジネスという点でいえば、インターネットにも通じるのではないかと思います。インターネットでビジネス展開が出来る人は、理由や動機がしかっりしていて、企画を明確に持っている人が多い気がしています。何か近しいものを感じますね。
 そうだとすれば、3Dプリンタはまず、どういった方々が活用していくと思われますか。

田中  最近、3Dプリンタは日本でも急に知名度が上がってきていますが、まずはフィギュアなどに活用されそうですよね。
 ただ、個人的には、3Dプリンタで「修理」の文化を再定義してみたいと考えています。メーカーが生産中止としたパーツでも自分でつくって直すということができるようになって、僕自身、生活のなかで「修理」がひとつの楽しみになったのです。修理や修繕はかつてからDIY文化の核にあったものですが、その可能性がぐっと広がった感があります。

 それから、3Dプリンタだけではなく、ほかの工作機械といろいろ組み合わせてみることもFabLab鎌倉では奨励しています。「3Dプリンタだけでものづくりをしよう」って、なんだか「電子レンジだけで料理をつくろう」という風に聞こえるんですよね。むしろ僕は、キッチンという場に、レンジ、オーブン、炊飯器、まな板、ガスコンロなどが並んでいて、いろんな素材が揃って、やっと「料理」が始まるのだという感覚で捉えたいのです。3Dプリンタ、はんだごて、CNCマシン、レーザーカッター、かなづち、というように、「アナログからデジタルまで」各種工作機械をいかに目的に応じて使い分けていくか、木や樹脂や金属や電子部品といった素材をいかに料理して統合していくのか、というのが「ものづくり」の醍醐味だと思うんです。だから工作室はキッチンと似ています。

――ただ、さまざまな機器を組み合わせて使いこなすとなると、一般の人にとっては若干ハードルが高いような気もします。仮に、いま作りたいものが思い浮かばないという人はどうすれば良いのでしょうか。私自身、MAKER MOVEMENTの中で、「何か作りたいな」と思うのですが、なかなか思い浮かばなくて、駄目だなと思ってしまうんですよ(笑)。

田中  作りたいものがないのは、別にその人が駄目なわけではないですよ(笑)。作りたいものがない人は作りたいものが出てくるまでじっと待てば良いんです。とにかく、待つ。自分の内発性を信じる。これですよ(笑)。
 たしかに、FabLabでよく質問を受けます。「私も何か作らないといけないんですか?」って(笑)。「いや、FabLabなどは、必要な人が必要なときに必要なものを作るためのインフラだから、自分の中に願望とか動機とかが湧き上がってくるまでは、じっくり待った方が良いですよ、むしろ良く観たりじっくり味わってものを使うという行為も大切ですよね」って答えているんですけどね。一過性のムーブメントが、強迫的なものに転じてしまうのは本当にまずいですよね。というか、そもそも「何も作っていない人」なんていないんじゃないかとも思うんです。振り返ってみれば、自分はそんなことないと思っている人だって、実際は何かつくっているものでしょう。

コミュニティ


――田中先生がFabLabを通して作っていこうとされている、コミュニティはどのようなものでしょうか。

田中  先ほども言ったんですが、僕がコミュニティの中に根付かせていきたいのは、修理の文化なんです。僕は自宅の洗濯機を修理して家族から褒められましたし。

イケダ  羨ましい(笑)。

田中  「製品開発」を主眼としたMAKER MOVEMENTとは少し違う角度から、そういう修理の文化と3Dプリンタを結びつけたコミュニティを作っていきたいです。家のなかのものを直す次は、地域の壊れたものを地域で直すということに広げていけたらと考えています。

イケダ  実は僕も先日、洗濯機が壊れたんですよね。ホースとクランプをつなぐところが壊れてしまって、ただのプラスチックのパーツなのに、それを買ったら700円くらいして、高いなと思って。

田中  そうそう。メーカーに問い合わせても、パーツが製造中止になっている場合もあるみたいですしね。「じゃあ、どうすれば良いのか」ってなったときに、3Dプリンタで、印刷できれば、一石二鳥ですよ。(笑)。自分も直せると同時に、それをウェブにアップすれば、同じ商品の故障に直面している他の多くの人の役にも立ちます。クリス・アンダーソンは「モノのロングテール」を提案していますが、僕は「モノのシェアウェア」を提案したいのです。

イケダ  ちなみに、このパーツはどのくらいの時間があれば作れるのでしょうか。

田中  モデリングに30分、出力に30分くらいですね。

イケダ  1時間で出来ちゃうわけですか。

田中  そう。わりとすぐに出来ます。さらに、パーツの色を変えたり、素材を変えたり、修理の延長線上に、自分なりのデコレーションやカスタマイズをしていくと面白いだろうな、と思います。壊れたものをただ元に戻すのではなく、それをきっかけとして別のものに変えていくリペアデザインというコンセプトがあるのですが、こうした可能性にワクワクしますね。

――以前のインタビューでイケダさんはMAKER MOVEMENTとコミュニティでの支えあいという話に触れられていましたが、地域コミュニティの今後については、どのようにお感じですか。

イケダ  僕はいま、多摩市に住んでいます。デジタル工作機械はないのですが、ノコギリや木材がたくさん置いてある地域の工作所が近所にあります。
 もしそういった場所にデジタル工作機械が置かれはじめれば、僕の住んでいる地域はすごく面白くなると思います。
 現在、個人で3Dプリンタを買うことができる人は、スペースや購入費用の問題があるので、限られています。これからFabLabのように、地域にデジタル工作機械があるという場所が増えてくれば、その地域に住む大人や子供が集まってきて、もの作りという切り口で地域コミュニティが活性していくかもしれません。このような形は、MAKER MOVEMENTの一つの可能性だと思います。僕も、いつかそういうことにチャレンジしてみたいですね。

分解というファブリケーションの重要な役割



右から田中浩也氏、イケダハヤト氏


田中  コミュニティの活発化という話題でいうと、20世紀って、生産と消費の2項だけで考えてきました。つまり、メーカーとユーザー、作る人と使う人という形で分けられていました。FabLabは、この極端な分断をなんとか緩和できないかという活動でもあります。
 ただ、もうひとつ大事な3つ目の項目があります。分解という役割です。もともと自然界の生態系って、生産者、消費者、分解者がいて、この3つで生態系が回っています。ただ、人間の社会では20世紀までは生産と消費という2項だけしか社会の中で機能してこなかったのではないかと思います。3つ目の分解者という役割を位置づけることができれば、社会やコミュニティがうまく回っていくのではないかと思いますね。

イケダ  なるほど。面白い視点ですね。

田中  リサイクル会社やリユース会社も頑張っているのですが、分解されたものを再生産して再び価値を付与していく道があれば、パーソナルファブリケーションは発展していくと考えています。そこにユニークなアイディアや、デザイナーのセンスなどが結びつくといいと思うんです。この分解から再価値化の部分を、いまワークショップなどで組み立てようとしています。僕の研究室にも、だんだんこうした文化が育ってきました。

イケダ  分解についての技術的な面で質問なのですが、3Dプリンタを活用して、プラスチックで出力したものを一回溶かして、再利用することは出来るのでしょうか。

田中  イケダさん、さすがですね(笑)。実は研究室内で分解についてのプロジェクトも進めています。樹脂などの素材を使って3Dプリンタで作ったものを、また溶かして素材に戻す実験を行っています。また、生分解性プラスチックという素材があります。生分解性プラスチックで3Dプリントしたものは、肥沃な土に埋めておけば、微生物が分解して、また自然に戻っていきます。こういう風にものが自然に循環していくというのは面白いなと思います。そうすると廃棄物というのが世の中からなくなっていくかもしれません。

――分解という考え方はFabLabの活動の中でも重要視されていますか。

田中  FabLabは地域ごとに多様なので、すべてのラボが重要視しているかどうかは分かりませんが、私の関わるFabLab鎌倉は富士山と連携して資源循環のプロジェクトをやっています。また、MITビット・アンド・アトムズセンター所長ニール・ガーシェンフェルドは『Fab ―パーソナルコンピュータからパーソナルファブリケーションへ』(オライリージャパン)の中で、デジタルファブリケーションの逆はデジタルリサイクリングであると記しています。3Dプリンタとか、デジタル工作機械って、作ることと同時に「戻す」ことも考えているのです。MAKER MOVEMENTが「産業革命」と呼ばれる一方で、3Dプリンタや工作機械そのものをつくっているエンジニアには、環境や親自然的な生産システムへのまなざしもあると思います。使いながらつくったり、上手に改良していったり、上手に捨てていったりすることも、同時に考えていくのがこの活動だと思うんです。だから、技術だけではなく、社会や文化も考える視点をもちたいんですね。

※後編に続く


TEXT BY KEI AMANO

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