日本のメイカームーブメントが抱える3つの課題 ~WIRED CONFERENCE 2012に行ってきたゼ!!

取材記事 2012.11.12
 日本人はメイカーになり得るのか――。

 アメリカに端を発した、デジタル機器を活用した新たなもの作りの動きは海外で大きな盛り上がりを見せている。しかし、日本でメイカーになるには、大きな壁が立ちはだかっている。

 先週末に開催されたWIRED CONFERENCE 2012は日本の製造業の未来を考える上での示唆に富んだ、とても刺激的な場であった。その感動と興奮を報告しよう。

 「WIRED」日本版を刊行するコンデナストジャパンさんが主宰する同カンファレンスは「新しい産業革命 メイカームーブメントが世界のものづくりを変える」と題して、六本木ヒルズ内にあるヒルズアカデミーで開催された。


WIRED日本版・若林恵編集長による主催者挨拶

 アメリカでは毎年のように、開催されているというWIRED CONFERENCE 。日本では今回が初めての開催である。主催者挨拶にコンデナストジャパンさんの意気込みが、そして満員の座席に参加者の期待度の高さが感じられた。

さまざまなメイカームーブメント

 基調講演は我らがクリス・アンダーソンだ。


クリス・アンダーソン氏

 クリスは『MAKERS』での議論をベースに、父の思い出を振り返りつつ、新しい産業革命の見通しを語った。

※クリスの基調講演の模様は後日、WIRED CONFERENCE 2012のサイトに期間限定でアップされるようだ。また、エンジニアtypeさんの「『MAKERS』のクリス・アンダーソンらが来日講演で語った「未来の製造業」【WIREDCONFERENCE 2012レポ】」という記事で詳細にレポートされている。そちらを参照されたい。

 次の「プレゼンテーション1」に登壇したのはPCHインターナショナル代表のリアム・ケイシー氏だ。世界中の一流ブランドの製品・開発・供給を手掛けるリアム氏は「21世紀のサプライチェーンのつくり方」について語った。
 「日本の大手メーカーの商品のパッケージを開けると、まず目に飛び込んでくるのが、警告の文字だ。日本人は商品の魅力を伝えたいという思いや愛を持っていないのではないかと思ってしまう」という話にハッとさせられた。


リアム・ケイシー氏

 「プレゼンテーション2」にはクリエイティブとテクノロジーに強みを持つデジタルエージェンシー、AKQAバイス・プレジデントのレイ・イナモト氏が登壇した。「新しいものづくりとデジタルマーケティング」についてのプレゼンテーションを行った。


レイ・イナモト氏

 このセッション最後の「プレゼンテーション3」ではファブラボジャパン発起人、慶應義塾大学環境情報学部・准教授である田中浩也氏が「日本におけるデジタルファブリケーション そのポテンシャル」について語った。


田中浩也氏

 さまざまな角度からの問題提起に、メイカームーブメントの幅の広さを感じさせられる。

 今回、登壇された各氏のプレゼンテーションは日本でメイカームーブメントを起こしていくためのヒントがたくさんあったと思う。今回の記事では全てを網羅することは出来ないが、また別の機会にプレゼンターの著書やサイトを参照しつつ、考察を深めることにしたい。

日本のメイカームーブメントが抱える3つの課題

 日本におけるメイカームーブメントを考える上で出色だったのが、最後のトークセッションだ。このセッションのスピーカーは以下の通り。

クリス・アンダーソン氏(「WIRED」US版編集長)
リアム・ケイシー氏(PCH インターナショナル創業者兼CEO)
レイ・イナモト氏(AKQA チーフクリエイティヴオフィサー / ヴァイスプレジデント)
田中浩也氏(慶應義塾大学准教授/FabLabJapan発起人)
齋藤精一氏(ライゾマティクス取締役)
小林弘人氏(株式会社インフォバーン代表取締役CEO/株式会社デジモ代表取締役/「WIRED」日本版エディトリアル・アドバイザー)



 セッションでは主に日本における製造業の課題について議論が交わされた。ここでの議論は「メンタリティー」「上司説得型マーケティング」「開発スピード」の3つに大別されるだろう(もちろん、ほかにもたくさんの興味深い意見が交わされた)。

【1】メンタリティー

 ・日本企業がグローバル展開をする際に、英語の壁が議論される。しかし、言語よりもコミュニケーションに向かうメンタリティーに問題があるように思える。日本以外のアジア諸国の人々にはメンタリティーの強さを感じる。たとえば、同じ言語力でも中国人は開放的で、うまく異国の人々とコミュニケーションをとっている。「病は気から」という言葉があるように、簡単な英語でも良いから、まずは行動を起こしてみるべき。(レイ・イナモト氏)
 ・長年、中国に住んでいるが中国語をしゃべることができない。そんな私が企画を判断する際に見ているのは、言語力ではなく、企画に対する愛、情熱、そして本気度だ。メイカーには拙い英語と情熱さえあればよい。(リアム・ケイシー氏)


【2】上司説得型マーケティング

 ・日本企業では企画を通すために、いかに上司を説得するか、ということに重きが置かれすぎている。ユーザーをしっかり見るスティーブ・ジョブズのような上司であれば、問題ないだろう。しかし、社内でリスクテイクする上司はあまり見当たらないし、良い上司がいてもすぐに人事異動でいなくなってしまうのが実情だ。日本企業ではユーザーがあまりにも蔑ろにされている。(小林弘人氏)


【3】開発スピード

・上司説得型マーケティングに陥っているため、日本企業の開発スピードは遅い。(齋藤精一氏)
 ・早く動いた企業が産業を駆逐していく。日本企業の人々は、メールなどのレスポンスが遅い。日本人は時間に正確なので、早く動くポテンシャルはあるはずだ。(リアム・ケイシー氏)

 若林編集長の「日本の製造業は一回地に落ちないと駄目なのか」という問いに対し、田中浩也氏は「何かが落ちてくれば、きっと別の何かが上がってくる。20世紀型の大量生産・大量消費が駄目になってくれば、また新しい価値観が浮かび上がってくる。幸せのかたちが変わってくるのではないか。」と応える。

 そして、クリスが「大企業に属さなくとも、自分の力でアイデアをかたちにしていってもらいたい。日本からどんどんヒーローを出していき、WIRED日本版の表紙を飾ってもらいたい」と述べていた。

 テクノロジー、カルチャーの分野で最先端を走るWIREDさんのイベントで、このようなテーマが交わされることは正直、意外であった。しかし、日本の製造業の未来を考える上では、とても本質的な議論だと思う。

 まずは、このような刺激的な場を用意してくださったコンデナストジャパンさんに感謝したい。そして、このサイトでもさらに日本の製造業の未来を考えてみたいと思う。

 そう、日本のメイカームーブメントは、これからが本番なのだ!

TEXT BY KEI AMANO

おすすめだz!!