Tokyo Hackerspaceに行ってきたゼ! ~Arduino入門講座にリベンジを誓う編

取材記事 2012.12.26
 僕にはいわゆる電子系ものづくりについて苦い思い出がある。あれは中学1年の時だった。「技術家庭」の授業で男子はラジオを作ることになっていた。コンデンサーやらビニール線やらダイオードやら、雑多なものをハンダ付けなんかするあれだ。

 問題は、僕らが中学生男子だったことだった。……かったるい。僕と隣のヒグチ君は、13歳の頭でどうしたら作業を省力化できるか考えた。そして、一人で一式全部作るんじゃなくて、班のみんなで分業すれば楽だ、ということに気がついた。つまり配線係やハンダ付け係や組立係に各自が特化するわけだ。こうしてヘンリー・フォードも真っ青の流れ作業方式で班全員のラジオが作られた。効率的で、速くて、楽だった。

 ただひとつ悔やまれるのは、電源を入れてもラジオが鳴らなかったことだ。どれひとつとして。もはや誰のことを責めることもできなかった(どこでヘマをしたのか誰も分からなかった)。自分のことを責めることもできなかった(だって自分ひとりで作ったわけじゃないから)。こうして僕は、「モノづくり失格」という十字架を背負ってその後の青春を過ごすことになった……。

 あれから四半世紀、13歳からのトラウマを打破する絶好の機会が訪れた。Maker Fair Tokyo 2012で、とあるブースに目がとまったのだ。そこには『MAKERS』のクリス・アンダーソンがことあるごとにメイカームーブメントの世界的な拡がりを象徴する存在として挙げる、「ハッカースペース」の文字があった。Tokyo Hackerspace。話してみると、場所は渋谷のアップルストアの向かい、僕のオフィスから徒歩5分の距離だった。


MFT2012でのTokyo Hackerspaceさんとの運命的な出会い。



ハッカースペースは世界中に広がるコミュニティ。メンバーはコンピュータやテクノロジー、科学、デジタル・アートなどの関心領域でお互いに繋がり、コラボレーションをする。


 毎月ワークショップをやっているのでぜひ来てくれ!というTokyo Hackerspaceのメンバーの言葉に乗せられてサイトをチェックすると、「Arduino night」があった。アルドゥイーノとは、オープンソースのマイコン基板で、「自由な開発環境を提供してくれる。センサーや作動装置を簡単にプログラムに取り入れることができるので、だれでも手軽にコンピューティングとモノの世界をつなぐことができる」代物だ(『MAKERS』p41。同書の巻末付録では、「やってみよう!エレクトロニクス入門編」として、「モノ自身をより賢くする」というメイカームーブメントの重要な目的のひとつを実現するツールとして紹介されている)。これで心が躍らないわけがない。ついに汚名返上の時がやってきた。


これがArduinoの基盤。これでいったい何ができるんだろう?


 公園通り沿いのマンションの1室で昼間はコワーキングスペースとして使われているTokyo Hackerspaceにお邪魔すると、今日のワークショップには女性3人、男性も僕を含めて3人が参加していた。女性のうち2人は友達同士で共にアーチストとしてアート作品に電子を取り入れたいから参加したという。僕の隣の男性は目下就活中で、プログラミングはできるけれど、物理的なモノづくりは初めて、でもMaker Fair Tokyo 2012で可能性を感じて今回参加したらしい。


本日の講師エメリー(Emery Premeaux)。『Arduino Projects to Save the World』という本も出している。講義はすべて英語で行われた。


 まずは今日の先生、エメリーから「そもそもアルドゥイーノって何?」という説明があってから、必要なソフトやドライバをAruduinoのサイトからダウンロードし、いざ実践となった。最初のお題は、LEDを点滅させるというものだ。といってもソフトにはプログラムのテンプレートがついているので、それをつかってパソコンにUSBでつないだアルドゥイーノにアップロードするだけで、すぐにアルドゥイーノのLEDが点滅を始めた。プログラム内の「点滅時間」の部分の数字を変えれば点滅のリズムも変わる。パソコンの画面上で操作することが物理的なアトムの世界に繁栄されるスリリングな一瞬だ。

 次はスイッチを取り付ける。スイッチを押せば0、離せば1の信号が出るような簡単なプログラム、これもテンプレートをアップロードし、簡単な配線をすればすぐに動く……はずだった。なぜか僕のアルドゥイーノは動かなかった。正確に言うと、まわりのみんなはTHSにある予め配線されたアルドゥイーノを使っていたのだけれど、僕だけは自分で購入したアルドゥイーノセットを持ち込んでいた。だから余分にゼロから配線をしなければならなかったのだけれど、正確にやったつもりがビクとも動かなかった。僕の頭にあったのは、もちろん13歳のあの苦い記憶だった。


Arduinoの配線。コードを刺す穴をひとつ間違えるとまったく動かない。ここで僕は30分ほど足止めを食らうことに。


 けっきょく、配線の間違いが原因だと分かり、無事にスイッチが稼働した。本当は、これまでの「LEDの点滅」「スイッチのオン/オフ」のプログラムを組み合わせると、「スイッチのオン/オフでLEDが点滅」する合わせ技も可能だ。可能なはずだった。でも配線間違いでまごついている30分の間に、そのプログラムをどう書くかの部分は悲しくも既に目の前をスルーしていった。


なにやら難しそうな回路図。こう書かれるとまったく分からないのだけれど、実際の作業はとても簡単だった。


 気を取り直して次だ。デジタルだからといって扱える信号が0/1だけなわけではない。アナログ信号を入力するつまみをアルドゥイーノに繋いで(たった3つのコードをつなぐだけ!)、例のごとくソフトからアナログスイッチ用のプログラムを選んでアップロードするだけ。なんと、つまみを回すとそれに応じて0~1024までの数字をアウトプットに返すデバイスの出来上がりだ。


ボタンをとりつけたところ。今度は一発ですぐに動いた。


 本当は、このあとモーターを接続するプログラムを学べば、「アナログつまみをひねるとそれに応じたスピードでモーターが回る」という合わせ技が可能だ。可能なはずだった。テーブルの向こうでは、女性の二人組とエメリー先生がつまみを回してうごくモーターを前にわいわい盛り上がっていた。でも僕はここでタイムアップだった。僕の脳裏に何があったかって? もちろん13歳のあの苦い記憶はあった。でもそれ以上に、「もっと作りたい!知りたい!動かしたい!」という欲求が渦巻いていた。

 夜7時半過ぎから始まったArduino入門講座はいつのまにか10時を過ぎていた。もし時間があったら、いつまでもやっていたと思う。もちろん、僕がこの日にやったのは、本当に初歩の入り口だった。将棋で言えば、それぞれの駒の動かし方をやっと理解しだしたぐらいのことだと思う(喩えが適切かどうか分からないけれど)。でも、そのことで棋上の世界観を、つまりアルドゥイーノって何で、どんなことができるのか、という世界観をほんの少し、垣間見られた気がする。

 何よりも心強かったのは、アルドゥイーノがオープンで、テンプレートがあって、何度でもプログラムをアップロードし直せるし、配線をしなおせるし、さまざまな機能を加えていけるところだ。一度作ったら終わり(動いても動かなくても)というラジオとは大違いで、まさに試行錯誤しながら物を作っていく楽しみがつまった基盤だった。そしてクリス・アンダーソンをはじめ、多くのメイカー達が、実際にこのアルドゥイーノを使ってモノづくりをビジネスにしたことを思えば、そのスタートラインに立てたことにもなる。やっと13歳のあの時から、1歩を踏み出せた気がした。それは、ゾクゾクするような刺激的な1歩だった。

■参考 Tokyo Hackerspaceでは毎週火曜日に非メンバーにも開放したWeekly Meetingを、そして毎月ワークショップも開催している。

アルドゥイーノの入門のために、僕はオライリー社の『Arduinoをはじめよう』という入門書と、スイッチサイエンスの『Arduinoをはじめようキット』を購入した。


TEXT BY MICHIAKI MATSUSHIMA

おすすめだz!!