チームラボは生粋のMAKER集団だゼ!! 【前編】

インタビュー 2013.01.15
Maker Faire2012で一際、異彩を放っていたブースがあった。チームラボMAKE部である。

 黄色地の大きなのぼり、ブースに集まるたくさんの人だかり。Maker Faire Tokyo 2012、メイン会場である1階ホール中央に位置するチームラボMAKE部は、多くの注目を集めていた。

 ウルトラテクノロジスト集団と称するチームラボは、百年海図巻東京スカイツリーで展示されている壁画(隅田川デジタル絵巻)に代表されるような、映像クリエイティブやデジタルアートに強いという印象があったので意外だった。

※実際には、チームラボはMAKE:の常連で、2009年のMake: Tokyo Meeting 04から出展している模様。にわかMAKER MOVEMENTファンの不勉強を恥じています。すいません。

 奇想天外なクリエイティブを発表し続けるチームラボ社内の部活動であれば、これまでとは別の角度から、MAKER MOVEMENTの魅力を引き出してくれるのではないか、と思い、取材を申し込んだ。

 しかし、そうした期待は、あっさりと裏切られた。チームラボは生粋のMAKER集団だったのだ。

 前編ではチームラボMAKE部の発起人、高須正和氏( @tks)にMAKE部の取り組み、社全体のMAKER文化について、お伺いした。

記事は全2回掲載予定。

高須正和(タカスマサカズ)

ウルトラテクノロジスト集団チームラボ カタリスト(ディレクター)。趣味ものづくりサークル「チームラボMAKE部」の発起人。ニコニコ学会β幹事

高須正和氏


 今年のMaker Faireはいかがでした。
 おかげさまで、大盛況でしたね。当初、チームラボのチラシを500枚用意していたのですが、すぐ増刷しました。それでも足りなくて、結局1,500枚のチラシがはけて品切れになってしまいました。

チームラボのブースの様子


 全体の来場者が約9,000人と聞いてますから、6人に1人はチームラボさんのチラシを持ち帰ったことになります。凄い数字ですね。何か収穫はありましたか。
 「3Dプリンターにバンザイ!」というブログを書いているメンバーが、自前のMakerBot Replicator(3Dプリンタ)を持参して、カエルのオブジェを作っていたのですが、とても作品が精巧だと、高評価をいただきました。

チームラボが展示していた3Dプリンタ


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3Dプリンタで作った、カエルのオブジェ


 確かに、とてもリアルでダイナミックですね。やすりなどはかけていないんですか。
 何もしていません。「この精度の出力は始めてみた」とか、「業務用でも、ここまでの精度は出せないよ」とか、とても評判が良かったんです。担当者の前に人が列をなしていて(笑)。
 でも、なぜ、クオリティが高かったのでしょうか。CADデータがよく出来ていたということなのでしょうか。
 それもあるかもしれませんが、3Dプリンタの組み立て方が良かったようなんです。
 MakerBot社の Replicatorは、セットアップするときに何カ所かネジ止めする必要があり、組み立て方によって、作品の出来にバラつきがあったようです。
 ネジの締め方などの設置の仕方によって、作品の出来が違ってくることがわかりました。設置方法については、担当者が「Makerbot Replicator 設置編」という記事に後日、まとめました。

 例年同様、今年も楽しく、アイデアや意見の交換をさせていただきましたね。ただ、混みすぎていて、あまり他のブースは見ることができなかったのが残念でした。
 会場で若い方が多かったような印象を受けましたが、学生の反応はいかがでしたか。
 学生の方もたくさんブースに来ました。「チームラボに入りたいです」と言っていた学生もいて、とてもありがたかったです。実際、若手社員でも、MAKE:で知り合ったことがきっかけで、採用にいたった社員が数名在籍しています。
 MAKER枠があるわけですね(笑)。でも、なにかチャレンジしたいという若い方が多いでしょうから、優秀な人材と会うきっかけになりそうですね。
 そうなんですよ。僕らは採用の際に、必ず現場の人間が面接を担当します。エンジニアだったら、エンジニア、カタリストだったら、カタリストといった具合に。エンジニアの場合、お互い話すことが得意でない場合が多いので、「学生時代に、これ作っていました」「MAKE:で、これ出展しました」ってプロトタイプをみせれば、いきなり面接のハードルが下がります。モノが、その人の能力を語ってくれるので。
 優秀な学生のみなさんとお会いできるのも、MAKE:の楽しみの一つですね。

チームラボMAKE部とは!?


そもそもチームラボMAKE部が発足したきっかけは、何だったのでしょうか。
 2~3人の同僚と第2回のMake: Tokyo Meetingを見に行ったことが、はじまりです。見たあとに社内で、「メチャクチャ面白かったよ!」と話して回りました。すると社内の何人かが、食いついてくれて第3回は7~8人ぐらいが見に行きました。同僚たちも「やはり、これは面白い」と言ってくれて、「じゃあ、次回は出展してみよう」と、自然な流れで出展することになりました。毎回、実際に作品を作る人、ブースの店番などでサポートする人、あわせて20人ぐらいが集まっています。
 まるで、社員旅行のような盛り上がりですね。MAKE部は現在、何名くらい在籍しているのですか。
 特に名簿などは作ってもいませんし、特に定期的な会合なども設けていません。
 え! そうなんですか!? 定期的に部活動をされているのかと思ってましたが。
 いえ、特に意識することなく、自然な流れでもの作りを楽しんでいます。
 チームラボの場合、エンジニアが社員構成の7割を占めていて、工業高等専門学校や大学の理系学部出身者が、とても多いんです。それこそ、ロボットコンテスト出場者も何名か、いるはずです。
 以前、私が講師を担当して、Arduino勉強会を3回開催したのですが、最後のときは「こんなものを作ってみた」と、プロトタイプを持ち寄ったりして、出席メンバーの方が詳しくなっていました。講師の立つ瀬なしという感じです(笑)。

 毎回、「今年もMAKE:に出展するぞ!」と社内にポスターを貼って呼びかけていますが、来る人拒まずで、参加したい人が、それぞれ持ち寄って、準備をしています。友人や取引先などからゲスト参加する人もいまして、今年は、Cerevoさんなどがゲスト参加しました。ユカイ工学とは、だいたい毎回隣で出展しています。
 会場でも「強力な組み合わせですね!」と驚いていた学生もいました(笑)。



取材の際においしいコーヒーをいただいた。さすがはチームラボさん、器もステキだ。


 そうですか(笑)。チームラボの場合、みんなが思いついたら形にする文化が根付いているので、あまり敷居は設けず、年1回のMAKE:を目指しています。みんなで楽しく、もの作りをし、意見交換をしていければ、良いなと思っています。

チームラボは生粋のMAKER集団!?


 チームラボさんは映像クリエイティブやデジタルアートに強いイメージがありましたので、ハードウェアのもの作りにも社内で果敢にチャレンジされているというのは、とても意外です。
 いや、そんなことはないですよ。チームラボの場合クライアントからの依頼を受けて、クリエイティブの制作を行うスタイルをとっています。もしご要望にあえば、イベントもプロデュースしますし、製品開発の提案もします。これまでも、楽曲を作ったこともありますし、アートイベントを開催したこともあります。
 ハードウェアへの展開は実際にどのようにされているのでしょうか。
 商品展開としては、チームラボハンガーという事例があります。詳しくは担当の安達から、お話させていただきます。 ※インタビュー後編で掲載予定。
 あと、商品展開ではありませんが、社内のエレベーターをハックしたこともありましたね。
 エレベーターをハックですか!? (笑)。
 そうです。これは社内でも盛り上がりました。

 ある社員が、今年の2月15日の午前2時に社内のほぼ全員にこんなメールを送ったてきました。

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件名:エレベータをブラウザから呼びたい
TO:工作とか詳しそうな方、いろいろ知ってそうな方

本文:新オフィスでエレベータの待ち時間が長くなったことも大きいんですが、
自分の席から、今エレベータがどこにあるのかを見て、呼ぶボタンをおして、
もうすぐ来そうだなって時に席を立ってエレベータに乗り込めたらいいと、
個人的に思っています。

あとビルに入る前からiPhoneでエレベータを下に呼んでおく、
みたいなことも普通にできたらいい気がしています。
(というか10年後には当然そうなってる気がするので早くやりたい)


エレベータがネットにつながっていてAPIがあれば解決なんですが
今はそうなっていないので、
エレベータのボタンを押すwebガジェットを作れればいいと思うんですが、
どうやって作ればいいか(機構)とか、参考情報とか、
なんか知ってる人いたら教えてもらえると嬉しいです!

具体的には、エレベータの中に設置するのは電源とか大変そうだからやめて
仕事フロアのエレベータ呼ぶボタン △ と ▽ に、
なんかガジェットをとりつけて、webAPIの指令をうけてそのボタンが押ささる
みたいなのをイメージしています。
あと普通に手でボタンを押すこともできるようにする必要があります。

僕には、どういう機構にすればいいとか、ぜんぜんわからないので
こうしたらいいんじゃないか、こういう事例知ってるよ、みたいに
思いつくことあったらコメント下さい!
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 そうしたら、他の社員が反応しました。これは午前3時のメールですね。

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それは超できそう!やるべきですね!
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 それをみた画像認識に詳しい社員が返信しました。

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全然機構わからないのですが、
 今何階にいるかとかも、電光掲示板みたいなところを読んでわからないですかねー。
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 そして、続々と。

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電光掲示板の階数と、▽△を区別して認識できればできそうだよね。
室内なら電源も取れるから稼動も問題ないだろうし。
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 社員が俄然、やる気を出しまして(笑)。
 深夜に凄いテンションです。さすがはチームラボさんです(笑)。
 だけど、本当に凄いのはこの後です。朝に出社した社員が、このやり取りをみて、動き出します。実現に向けて、さまざまな意見を交わしました。

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なるほどなるほど!わかりました。
回転する手がついたガジェットを、
ボタンの横とかに貼り付けるってことですよね。
初音ミクみたいなのっていうのもいいですね。

ちなみに、ガジェットがボタンを押した際に
反力で剥がれちゃわないようにする
工夫とかはいらないのかな?
壁に釘で固定、とかになると一気にハードル上がるので心配です。
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そんなイメージでした!
固定方法は要検討ですね。。

結構強力な両面テープが工作室にあるので、
それ使えばいけるかもしれないです。
試してみましょうー。
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 やり取りが具体的になってる(笑)。
 結局、実現に向けて、メールでのやり取りだとすべて議論を追うのは手間になってしまうので、Facebookページを作ることになりました。これが昼ころです。

 それで、まる一日くらい経ったあとにメールを見た猪子(チームラボ代表)が、このやり取りを見てメールで一言。
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これ、おもろすぎる!
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もう、MAKER精神炸裂ですね!
 そうですね(笑)。その後もFacebookページでやり取りを継続しました。最初は、このやり取りを公開しないほうが良いのでは、という意見もあったのですが、「公開でいこう!面倒になったらさくっと非公開で」と、勢いのある感じで。

 実際に開発は成功したんですか。
 できましたよ。約1ヵ月後の3月18日、エレベーターの階数表示をカメラでセンサリングして、PC上で今何階にいるか、知ることが出来るソフトウェアが完成しました。
 ただ、完成の数日後「なんかこう、ぶっちゃけ、思ったほど便利じゃない感があるぞ!
なぜだろう。」というコメントがFacebookページ上に投稿されました。完成して、すぐにみんなの心が離れてしまいました。作ってみたら、全然面白くないやって(笑)。

あらゆる産業がアートになる


 日常的にMAKER MOVEMENTが沸き起こっているんですね。
 そうかもしれませんね(笑)。こうした文化はチームラボに深く根付いていると思います。
 チームラボには“New Value in Behavior”という、目的のために行なう行為自体を独立させ、そこに新たな価値や精神性を見出したり、行為そのものを楽しんだりしようというコンセプトがあります。たとえば、茶道では、ただお茶を入れるのではなく、その過程や、お茶を入れるという行為自体を楽しんでいます。本来の目的に、別の価値を与えるということが、日本文化の特徴ですし、僕らが日ごろ目にする当たり前のものや行為に、新しい価値を与えて、面白いものを作っていきたいな、と考えています。 特に、情報社会以降の現在の状況を考えると、ハードウェアがデジタルネットワークとつながれると、行為は一つのインターフェースになります。ただのモノであったハードウェアを、デジタルネットワークという別の世界とつなぐことで、それまで当たり前に行っていた行為に、全く異なる価値付けを行うことが出来るわけです。


時にホワイトボードを用いながら、高須さんは親切に説明してくださった。


 たとえば、エレベーターをハックした話も、普段われわれが何気なく行っていたエレベーターの前での階数確認という行為を、テクノロジーを利用して別の方法で模索したという意味で、その一例といえると思います。

 あるモノをテクノロジーの力でネットワークにつないだとき、新しい文脈の中で、どんなにワクワクする体験が起こりうるかということは日常的に考えていますし、実現できるかわからないけど、「とりあえず、やってみよう!」というDIY的な精神はありますね。




チームラボのTシャツにMAKE:のパーカー(ちょっと分かりにくいか。。。)


 “New Value in Behavior”ということですが、チームラボにとっての価値は、どのようなものなのでしょうか。どういった企画が社内で良いと評価されるのでしょうか。
 それは、「何だかよくわからないけど、凄いこと」。これに尽きると思います。
 チームラボには“New Value in Behavior”のほかに、「あらゆる産業がアートになる」という言葉があります。

 情報社会以前のもの作りは、そのものの良さが論理や数値などで表現されていたのだと思います。こんなに難しいことがこんなに簡単にできるようになったという説明や、画素数や速度、燃費がこんなに良くなったという数字で、プロダクトの性能を競っていました。もちろん、それはそれで良い部分も、悪い部分もあるでしょう。

 ただ、情報社会以後のもの作りは、「気持ち良い」「楽しい」といったような、感覚的な価値判断が強くなってくるだろうと考えています。たとえば、たくさんの検索サービスがある中で、多くの方がGoogleを利用しているのは、使っていて気持ちが良いからでしょう。論理や数値で性能を比較するのではなく、自分に気持ちの良い検索結果を表示してくれるから、Googleの検索サービスを使っているのではないかと思います。
 なので、より高機能な製品を作る場合には、それまでの技術の延長線上にさらに良いものを作ろうとするのではなく、もの自体をまずネットワークとつなげて、論理や数値で表現しづらいデジタル領域において新たな価値観を提案することが、情報社会以後のもの作りだと思っています。デジタルテクノロジーを駆使して、ハードウェアであっても「アート」のように感じていただけるものを作っていきたいですね。


カラフルでクリエイティビティに富む打ち合わせルーム


 そう考えると、チームラボはFabLabとは違った意味での、MAKER MOVEMENTにおける、ひとつのラボなのでしょうね。日本には行為自体をさまざまな角度から楽しむという豊かな文化の土壌があるので、当たり前に日々行っている行動に新しい価値を与えて、「こんな未来があったら、面白いじゃん」という可能性を、デジタルテクノロジーを武器に提案していきたいと考えています。

※後編は1月18日(金)公開予定

TEXT BY AMANO KEI

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