我らがソニーはなぜMAKERSに敗れたのか?

ブックレビュー 2012.10.23
我らがソニーはなぜMAKERSに敗れたのか?
 いま、大手家電メーカーの業績不振が叫ばれています。ジャパン・アズ・ナンバーワンを牽引してきた、これらの企業のピンチは、われわれに大きなショックを与えています。日本のメーカーは、このままで大丈夫なのか、もはや回復の見込みがないのか。そのヒントは、新しい作り手たち<メイカー>の中に隠されているのかもしれません。

 ベストセラー『ロングテール』、『フリー』の著者でもあるUS版『WIRED』の編集長、クリス・アンダーソンは、新著『MAKERS』で、日本の大手家電メーカーと新しい作り手たち<メイカーズ>の印象的なエピソードを綴っています。

「二〇一二年四月一二日、ソニーはいつものように鳴りもの入りで、新製品のスマートウォッチをアメリカにおいて一五〇ドルで発売すると発表した。ブルートゥースで携帯電話とつながり、ショートメール、電子メール、ソーシャルメディアの更新ができる、なかなかそそられるガジェットだ。ひと昔前なら、「ソニーが腕時計に参入!」と一面を飾ったはずだが、今回はだれもこのニュースに注目しなかった。なぜだろう? その前日、パロアルトのアパートの一階で働いていた数名のエンジニアとハードウェアハッカーのスタートアップチームが、キックスターター上でこれまでにない腕時計を発表したからだ。しかも、それはソニーよりも優れた商品だった。」(『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』クリス・アンダーソン著 関美和訳 P217)

 技術大国といわれた日本を代表する企業が、立ち上げ数年の新興企業に負ける。そんなことが、ありうるのだろうか、と思うのも無理もありません。しかし、これは実際に起こったことなのです。

クラウドファンディングが可能にしたファンとのもの作り

 アンダーソンによれば、「パロアルトのアパートの一階で働いていた数名のエンジニアとハードウェアハッカーのスタートアップチーム」、すなわち、ぺブルというアメリカの新興企業がソニーの新製品を打ち負かしたのは、少人数のチームならではの機動力で、研究開発、資金調達、マーケティング力といった、全ての部分でソニーを上回ったためです。そして、それを成し遂げることを可能にしたのは、キックスターターというアメリカのクラウドファンディングです。

 クラウドファンディングとは、ファンやサポーターが商品の製造に必要な資金を援助する仕組みのことです。新興企業が魅力的な製品やサービスを発表する。一方で、それに共感した人々が、応援し、彼らにフィードバックを与えます。フィードバックは賞賛とは限りません。ときには、開発中の製品に対する、辛らつな意見もあるでしょう。
さまざまなファンのニーズに応え、さらに良い商品を作っていく。そうした過程の中で、新興企業はユーザーのニーズにあった商品を開発していきます。

 既に熱烈なファンをもつ新興企業の商品に、極秘情報にまみれた日本の大企業の初お披露目が打ち負かされるのも無理もありません。商品発表の前に、勝負は決まってしまっていたのです。

いま、起こりつつある産業革命

 もちろん、メイカーたちだけの産業が成り立つ、というようなことを言いたいのではありません。産業の根本的な考え方が変わりつつあるのです。クリス・アンダーソンは次のように述べています。

「ゼネラルモーターズやゼネラル・エレクトリックが消えてなくなるわけではない。ウェブが普及してもAT&TやBTがなくならなかったのと同じことだ。「ロングテール」が示すように、新しい時代とは、大ヒット作<ブロックバスター>がなくなる時代ではなく、大ヒット作による「独占」が終わる時代なのだ。もの作りにも同じことがいえる。ただ、「より多く」なるということだけなのだ。より多くの人が、より多くの場所で、より多くの小さなニッチに注目し、より多くのイノベーションを起こす。そんな新製品――目の肥えた消費者のために数千個単位で作られるニッチな商品――は、集合として工業経済を根本から変える。五〇万人の従業員が大量生産品を製造するフォックスコン一社につき、ほんの少量のニッチ商品を製造する新しい企業が数千社は生まれるだろう。そうした企業の総和が、もの作りの世界を再形成することになるはずだ。」(『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』クリス・アンダーソン著 関美和訳 P291)

 大企業が製品を大量生産し、市場を独占できる時代は終わりつつあります。多くの人が、さまざまな場所で、人々が本当に求める製品を作れるようになっているのです。
 日本の大企業が、この新しい産業革命を前にして、どのようにもの作りの理想を実現していくか。それがいま、問われているのです。

参考「Tech Crunch:スマートウォッチPebbleがKickstarterで200万ドルを集めた理由」
TEXT BY KEI AMANO

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