タミヤに、本気のモノ作りの魂を見たゼ

取材記事 2012.12.10
ホビーファンなら誰でも知っている赤と青のツインスターマーク。タミヤは、世界中の模型ファンに愛される、日本を代表するメイカー企業だ。このサイトを担当する2 名のスタッフも、世代は違うが第一次ミニ四駆ブーム、第二次ミニ四駆ブームにそれぞれ熱狂してきた。飽くなき挑戦、執拗なまでの細部へのこだわり。60年以上に渡りホビーの世界でモノ作りに携わってきたタミヤの秘密とポリシーを、広報担当の村田さんにうかがってきたゼ。

取材は新橋にあるタミヤ プラモデルファクトリー 新橋店で行われた。



タミヤの広報担当の村田さん


チューンナップを施されたミニ四駆。2012 年で30 周年を迎えたタミヤのミニ四駆は、単三乾電池2 本とモーターで走るマシンをグレードアップパーツでチューンナップし、サーキットで速さを競うレーシングホビー。累計420 種以上の車種があり、約1 億7000 万台以上の販売を記録している。子供だけでなく第一次ブームを体験した30 代、第二次ブームの20 代の復帰組も巻き込みさらに盛り上がりを見せている。30 周年を記念してミニ四駆 全日本選手権「ジャパンカップ 2012」が13 年ぶりに復活開催された。



今日はあこがれのタミヤさんを取材させてもらうことができて光栄です!まずはタミヤさんの歴史を教えて下さい!
 タミヤの創業は1946 年です。元々は建築材など、木材の加工会社としてスタートしました。艦船の木製模型の販売をきっかけに、その後半世紀に渡り様々なホビーアイテムを提供してきました。現在では教材用のメカ工作から模型、RC モデル、ミニ四駆など4,000 以上のアイテムを提供していますが、製品作りの根底にあるのは気に入ったものを作って楽しんでいただきたいということ。ホビーを通じてモノを作る楽しみ、それを動かす楽しみを提供するのが我々の役割であると考えています。
僕にとってタミヤさんといえば、RC カーとミニ四駆でしたが、最初は木の模型だったんですね。タミヤさんにとってのモノ作りとは何なのか教えてもらえますか。
 模型にしてもRC モデルにしても、タミヤの製品というのは、衣食住が満ち足りたうえで成り立つものばかりなんです。矢じり・石オノの時代から、人類はより楽に生き抜くためにモノを作ってきたわけですが、タミヤが提供しているような趣味のモノ作りというのは、そうした生きるためのモノ作りの延長線上にはあるものの、生活必需品ではないですよね。
 経済活動の進化によって、現代社会では生き抜くために必要な衣食住にまつわる作業が極限まで分業化されています。それによって多くの国では、明日の食べ物の心配をせずとも、自分の仕事に専念するだけで生活できるようになりました。これは生き物としては幸せなことですが、逆にそのせいで、作りたい・工夫したいという人類ならではの欲求が満たされていないと感じる人がいると思うんです。車好きだったりD.I.Y.好きだったり工芸好きだったり、色々な趣味の人がいますが、趣味でモノを作っている人というのは、多かれ少なかれ、そうした「作りたい」という欲求があるのではないでしょうか。それを考えると、生きるためでなく、趣味でモノを作ることができる、暮らしのなかでそうした時間を作ることができるというのは、ある意味で幸せの証ではないかと思います。

たしかに、趣味の模型やRC カーは生活必需品ではないですよね。でも趣味だからこそ、情熱を注ぎ込み、のめり込む人たちがたくさんいます。そんな人たちの絶大な信頼を得て、熱狂を生み出せているのはどうしてなのでしょうか。
 リアリティの追求がその理由の一つだと思います。例えば「RC カーに実際の車と同じサスペンションを再現したい」という開発者の願望は、RC カーは実車と同じ仕組みにしなくても走るわけですから、こだわり以外の何物でもないです。RC 戦車は、本物の戦車のエンジン音が出ますし、砲撃は次弾の装填時間を考えて、連射はできないようになっています。
 フェラーリのエンジニアが「実物の自動車を作る術を知りたければ、最初にタミヤのキットを組み立てるのが近道さ」と言ったという話もあります(文庫版『田宮模型の仕事』の中で紹介されている逸話)。そこまでリアリティを追求しているからこそ、ユーザーの「かっこいいモノを手元に置きたい」という願望に応えられるのだと思います。
 一方で、RC カーやミニ四駆にはレースがあり、オプションパーツでカスタマイズし、より早くより安定した走りをさせるために試行錯誤する楽しみがあります。完成品と違い、作る過程やカスタマイズのワクワク感を楽しめることも、タミヤ製品が支持されている理由だと思います。

ミリタリーミニチュアはタミヤを代表する製品。まさにリアリティの追求だ。

戦車に実車のエンジン音!!愛好家に支持される理由がよくわかります。ところで最近では3Dプリンターやレーザーカッターなども身近な存在になってきています。クリス・アンダーソンは『Makers』の中で、メイカームーブメントが新たなモノ作りの時代を誕生させると書いていますが、現在のメイカームーブメントと呼ばれる現象についてどのようにお考えですか?
 模型メーカーに限らず、企業レベルでは3D スキャナや3D プリンタといったツールは日常的に使われていますし、それが個人に広がるというのは自然な流れでしょう。粘土でモデリングして3D スキャナでスキャンして好みのマテリアルで立体化したり、仲間同士で共有できる…なんてことを誰でもできるというのは、ホビー好きにとっては夢のような話でわくわくしますよね。しかし、本当の意味で「誰でも気軽に」が実現するまでの過程には、著作権のある立体物の不正コピーや製造物責任の課題があると感じています。
 不正コピーについては言うまでも無いので割愛して製造物責任の話をしますが、だれかが形あるものを作ると、ユーザーがそれで怪我をすることもある。ご存じのように日本には製造物に関する責任を製造者が負う法律「製造物責任法」や「損害賠償責任」といったものがあり、モノを使うユーザーが護られています。作ったものを仲間同士で「まだまだ未完成だけど、よかったら使ってよ」とシェアしあうだけだと問題にはなりにくいのですが、スマートフォンのアプリマーケットのように、趣味として作っている作者と「便利だから使うだけの人」が接点を持つようになると、知人同士のような相互理解を得るのが難しくなります。結果、作者が良かれと思って作ったものに低い評価をされてガッカリしたり、不用意な使われ方をして「怪我をした責任をとれ」と訴えられたりトラブルになるといった事態も起こりうるわけです。モノ作りにはそのような責任とリスクが伴います。
 ネガティブな想像をすると、メイカームーブメントが盛り上がるなかで、それにまつわる重大事故がひとつ起きただけで、それをきっかけとしてバッシングが起こり、日本が「つくり損」のつまらない社会になる危険をはらんでいると感じています。もちろんユーザーの安全は保護されるべきですが、カッターでも自動車でも、モノを使いこなすにはリスクがありますし、人が作るものが全て完璧ということはありえません。しかし、得てしてイノベーターとコンシューマーの発想や考え方の違いは摩擦を生みます。その摩擦を最小限に抑え、個人レベルのファブリケーションを活性化させていく上では、ユーザーと個人レベルのメイカーのありかたについて、前向きな議論が必要なのではないでしょうか。
製造には責任が伴うという視点、重要な指摘だと思います。これからメイカーを目指す人たちは必ず避けては通れない課題ですね。実際タミヤさんではどのような対策をされていますか?
 例えばRC カーでは、実車さながらの衝突試験や落下試験などを行なっています。ハイスピードカメラなども活用し、人に当たっても怪我しにくい、壊れても最小限のパーツ交換で修理できるような形状の検証を行なっています。
そこまでされて初めて、タミヤの信頼が生まれるわけですね。すごいです。では、タミヤさんの今後の展望をお聞かせ願えますか。
 最初にもお話しましたが、タミヤではプラモデル以外にも、RC カーやミニ四駆、工作モデルなどの動かして楽しむホビーを数多く提供しています。それぞれのカテゴリはタミヤ主催の競技会イベント等での遊び方が異なるので別のカテゴリとして位置づけられていますが、タミヤではこれらはすべてロボティクスの世界の一部であると考えています。たとえばRC カーは無線操縦式の車輪で高速移動が可能なロボット、ミニ四駆はレーンを走ることに特化したロボットという考え方です。また、それぞれの製品はキットとして提供されていますが、車体が壊れた場合は修理用の部品をパーツ単位で注文できますし、ユーザーが好みに合わせて改造できるように、多彩なカスタム用のパーツも用意しています。大会等では公平性を期すために使用パーツが制限されていますが、個人で遊ぶ方には、ミニ四駆やRC カーなど、各ジャンルのパーツを組み合わせてオリジナルのマシンを作ったりしている方もいらっしゃいます。
 このような、組み立てたり組み換えたりすることが前提の製品を提供するタミヤの体制とメイカームーブメントの関係を考えると、将来的にはパーツやユニット単体での販売が増えていく可能性もあるのではないでしょうか。個人が手軽にモノを作れるようになるといっても、誰もが全てをゼロから設計したいとは限りません。例えばRC カーで言うと、現在は走らせるのに必要なものを全てセットで提供するのが主流ですが、今後デジタルファブリケーションが普及していく中では、「カッコいいRC カーのボディや車体をデザインしたいな。でもギアボックスはありもので済ませたい…」といったような需要は今よりも高まるはずです。今後はそうした要望にあわせた、確かな品質の素材やユニットを提供する機会が徐々に増えると同時に、ユーザーの要望の中から新しい製品が生まれる可能性も高まってくるのではないでしょうか。タミヤはひとつの企業ですが、その中身はメイカーズの集団です。様々なアイテムを作ってきた経験を生かして、これからも皆さんのものづくりをサポートするパートナー、そしてホビーを楽しむ仲間として事業を展開できればと考えています。
世界中で愛されているタミヤさんのモノ作りの真髄にいろいろと触れされていただきました。そして、これからメイカーを目指す人にとっても参考になる点が多いお話でした。ありがとうございました!
取材スタッフ2 名は取材後、店内をくまなく堪能させてもらい、それぞれミニ四駆を購入。この瞬間、NHK 出版ミニ四駆部(会社非公認)が誕生したのだ。

真剣にミニ四駆を吟味するスタッフA

二人で購入したミニ四駆と工具。

<参考動画>
ミニ四駆ジャパンカップ2012 プロモーションビデオ


ミニ四駆「ウルトラサンダーサーキット2012」オンボードカメラ映像


ミニ四駆 スローモーション映像


タミヤ プラモデルファクトリー 新橋店
TEXT BY KOHEI YAMAMOTO

おすすめだz!!