イケダハヤトさんに聞く! 「3Dプリンタから考える非貨幣経済論~もの作りで人はやさしくなれる」 【前編】
イケダハヤトさんに聞く! 「3Dプリンタから考える非貨幣経済論~もの作りで人はやさしくなれる」 【前編】
そんなイケダさんは2012年の3月に「『3Dプリンタ』に注目する理由」という記事を投稿した。その後も「『3Dプリンタ』という未来」と題して、その最新の開発事例や意義を自らのブログに書き記している。
現代を代表する若手論客であるイケダハヤトさんが3Dプリンタに惹かれる理由とは、一体!? 全3回のインタビューで迫る!!
イケダハヤト
1986年生まれ。ブロガー、ihayato.news編集長。「テントセン」co-founder。NPO支援、執筆活動などを行うかたわら、企業のソーシャルメディア運用のアドバイザリーも務める。著書に『フェイスブック 私たちの生き方とビジネスはこう変わる』(講談社)『ソーシャルコマース 業界キーマン12人が語る、ソーシャルメディア時代のショッピングと企業戦略』(共著、マイナビ)など。近著に『年収150万円で僕らは自由に生きていく』(星海社新書)がある。
イケダハヤト氏
- イケダさんは早くから3Dプリンタをブログで記事にしていらっしゃいますが、どこに魅力を感じていらっしゃるのでしょうか。
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僕は3Dプリンタを資本主義的な大量生産・大量消費のパラダイムから脱却するための、重要なツールだと考えています。慶応大学准教授の田中浩也さんは『FabLife ―デジタルファブリケーションから生まれる「つくりかたの未来」 』(オライリージャパン)の中で、デジタルファブリケーション(デジタル機器をハブにしたもの作り)の魅力を適量生産・適量消費であると指摘しています。適量生産・適量消費とは、無駄遣いをやめて、自分の欲しいものを的確に手に入れる。そして、それらを適切に使っていくということです。
資本主義の大量生産・大量消費の社会では、消費者と生産者の距離が遠くなってしまっています。消費者は何に役立てて良いのか分からない大量のプロダクトに囲まれて生活をしている。他方で、生産者は消費者の需要をはるかに超えて大量のプロダクトを製造しているのです。たとえば、僕はいま引っ越し作業中なのですが、家具の立て付けに1本ネジが必要となり、途方に暮れてしまいました。たくさんの種類とサイズの中から、自分が必要なネジを選ぶのは非常に骨が折れる。また、欲しいのは1本だけなのに、何本も包装されたパッケージしか販売されていなくて、値段が必要以上に高かったりする。これって、とても無駄が多いことじゃないですか。欲しいネジは1本だけなのに、労力もお金も余計にかかっています。それに、使い道のないネジが大量に手元に残り、資源も無駄になってしまいます。
3Dプリンタがあれば、必要なネジをその場で即時、かつ低コストで手に入れることが出来ます。その場でデータをプリントするだけで製造できるわけですから。
僕は以前から反資本主義を訴えているので、より無駄のない生活を実現する3Dプリンタは、とても面白いツールだと思いました。 - そういった適量生産・適量消費への動きは、同時多発的に起っていることなのでしょうか。
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そうですね。クラウドファンディングやクリエイティブコモンズはそういった動きと歩調をともにする代表的なものです。
キックスターターで3Dプリンタを活用したプロジェクトを実現し、クリエイティブコモンズでネット上にソースコードを配布する。そして、3Dプリンタを持っている人はすべて、そのプロダクトを自分で作れるようにする。こうした、みんなでアイデアを寄せ合って、それぞれのニーズにあったものを作っていこうという流れはありますね。 - いま、仰られたオープンソースの魅力と広がりはどんなところだと思われますか。
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数億や数十億規模の大きなビジネスにとっては、特許で発明を囲い込むという行為は理に適ったことなのかもしれません。しかし、メイカームーブメントは、もっとプライベートでパーソナルな、僕ら自身の生活の変革であると捉えています。発明をオープンソースにした方が、僕らの実生活にとっては、メリットは多いんです。
たとえば、僕が面白いと思ったのは、家をオープンソースにする「WikiHouses」というプロジェクトです。これは家の設計図をオープンソースにすることで、あとはベニヤやガラスなどの素材があれば、誰でも家を作ることを可能にするプロジェクトです。もちろん、一部の仕事を工務店に頼むのでしょうが、このプロジェクトが成功すれば、もうほとんど自分たちの力で家を作れる状況になってしまいます。今後、設計士の仕事は厳しくなってしまうかもしれませんが、個人の生活にとっては、とても魅力的です。
もちろん大企業が大きな事業を行っていくためには、オープンソースの動きは、大きな抵抗勢力となるでしょう。ただし、僕らが普通に生きていく上では、個人がオープンソースでアイデアを出していくことで、大企業の大きな仕組とは違うレイヤーを築くことができます。業者に頼んでたくさんの金を支払わなくても、豊かな生活が出来るようになるのではないか、というイメージを持っています。 - もの作りのツールというと、レーザーカッターやCNC装置など、他にもいくつかあると思いますが、その中でも3Dプリンタにイケダさんが注目される理由は、どういったところでしょうか。
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3Dプリンタには、たくさんの可能性があると思っています。ブログでも、いくつか紹介してきましたが、肉を印刷するという、信じられないような事例もあります。家でビーフを印刷して食べるというのは非常に未来的ですよね。あとは、薬を印刷する研究事例もあります。まだ実験段階のようですが、プリンタに化学物質を入れて、PC上のデータをもとに薬剤を調合するもののようです。他にも臓器を印刷するプリンタもあり、3Dプリンタは生活から医療まで、さまざまなレベルで社会に貢献する可能性を持っています。
さきほど、ネジの例でお話した現実的な問題解決の部分と、このような未来への展開の可能性にとても惹かれています。※次回記事は11月16日(金)更新予定です。
TEXT BY KEI AMANO