日本のオープンイノベーションは踊る大捜査線をめざす!?〜「WIRED Session:Future of Work」に行ってきた。

取材記事 2013.04.11
 このMAKER MOVEMENT!!!のサイトでも度々テーマとして上がってくる「オープン・イノベーション」。先日のクリス・アンダーソンへのインタビューでも、日本のオープン・カルチャーがひとつの焦点になった(詳しくはこちらのWIRED.jpの記事を)。「オープン」とはイノベーションに限らず、ものづくりや、働き方そのものにも大きくかかわってくる重要なキーワードだ。

 そんな中、去年クリスが来日した際のWIRED Conference 2012にも登壇したライゾマティクスの齋藤精一氏を迎えたトークイベント「WIRED Session:Future of Work」が4月頭に行われた。ライゾマティクスといえば、Daft PunkのOne More Timeを使ったKDDIのCM「FULL CONTROL YOUR CITY」や最近ではきゃりーぱみゅぱみゅが増上寺をジャックしたその新バージョン「Full Control Tokyo / Real」、あるいはNIKE FREEのシューズを楽器に改造し、ブレイクビーツユニットHIFANAが演奏するシークレットライブ収めた「NIKE MUSIC SHOE」など既存の想像力を打ち破るクールなCMでご存知の方も多いだろう。カンヌ国際広告祭ほか海外広告賞を多数受賞し、デザイン/アート/エンジニアリングを横断する新しい表現形態で常に世界的に注目を集めるクリエイティブ集団であり、独立系先端R&D[Research and development/研究開発]ラボだ。その代表取締役でありクリエイティヴ/テクニカル・ディレクターという肩書きの齋藤精一氏が先ごろWIRED誌に寄稿したタイトルが「日本企業がいまエジソンに学ぶこと」だった。


WIRED Vol.7特集「未来の会社」p.86


 「20世紀のものづくりを決定づけたエジソンの「R&Dラボ」にぼくらはいま、いったい何を学ぶことができるのか」というその問題設定を引き継いで、今回のトークイベントでは「エジソン remixed ものづくりという仕事 vs. 齋藤精一」というタイトルでWIRED若林恵編集長との対談が行われた。その全貌はおそらくWIRED.jpの記事になると思われるので、ここでは当サイトでも度々取り上げている「オープン・イノベーション」に関わる興味深かったトーク部分を一参加者目線で要約したものをご紹介する。


齋藤精一氏(右)と若林編集長(左) 渋谷factoryにて。/span>

「エジソン remixed ものづくりという仕事 vs. 齋藤精一」


──まずはものづくりにおけるR&Dをいかにオープンにしていくのかの部分。第一線の現場で活躍されているからこその提言が続きます。

齋藤  R&Dについて言えば、例えば企業からは次のシーテックではこういうことを表現したいという話が来ます。光学メーカーには光学メーカーの強み、家電メーカーには家電メーカーの強み、テクノロジーがあって、それを使って新しい表現を開発するわけですが、まず5年後、10年後の話をして、その時に人々のライフスタイルはどう変わっているのかを考えます。誰もが3Dメガネをかけて寝っ転がって映像を見ているのかといえばそうでないわけで、では変わらない人間工学、アフォーダンス[環境が我々に対して与える“意味”]とはなんだろう? それを考えられませんか?という発注がくる。

 その時に、ただモックアップ(外側(ガワ)を作ってグラフィックを貼るだけ)を作るだけではなくて、自分は製品の中のスイッチまで触って、ボタンの触り具合、ボタンが沈み込むのは1mmなのか2mmなのかとか、そこの表現をまとめていきます。

若林  そうやって企業の外部の人間が入るのは普通ですか?

齋藤  普通はそういう情報開示はしていないです。企業はホントは内部で作りたいと思っている。ホットモック(実際に動作するモックアップ)を作るような仕事が多くなったのはこの5年ぐらいです。iPadのタッチパネルって、それがどれぐらい気持ちいいかが大切なわけで、ガワだけでなく、中の心地よさや、アプリなど、全部くるめてビジネスになってきた感じです。

若林  日本の家電メーカーがダメになったという話をよく聞きます。これまで家電メーカーは優秀な人材が優秀なものを作っていたのに、いつのまにかこの体たらくというのは残念です。たとえば日本のR&Dをお手伝いする中で、ここを変えれば、ということをクライアントには言いますか?

齋藤  言いますね、いっぱいありますから。例えば、それぞれの企業が先端研を持っていて、知財の縛りなしに新しいことをやっているんですね。センサーを作ったりバッテリーを作ったり。そういう現場にはなかなか入れないですが、彼らは毎日そういうことやっているから、何が新しいのか分からなくなっているんです。本当は埋もれた中にもいい原石があります。外部の目を入れると、そういうものがまた光り始めるんです。ルーティーンでやっていると分からなくなってきます。知財やパテントも含め、もう一回見直して考える必要はあります、という話はしています。

若林  実際にメーカーがそういう知財を外部に対してい公開することはありえるんですか?

齋藤  大企業での開発の強みのひとつは使える財産が多いことです。パテントをたくさん持っている。だったら、オープンプラットフォームで、作る過程も、成果物も外に出していこうということです。例えばAPIを公開している企業、ツイッターやLINEなどはAPIで成功しました。これってビジネス的には短期ではなく中長期のものですよね。

 逆に例えばある家電メーカーはかつて自分たちでフォトシェアリングのサービスを作っていて、サーバに莫大な投資をしているのに使っているのがたった2000人といったおかしな話がたくさんあるわけです。API化しないことのリスクがすごくある。

 だからAPIと同じようなことを、ものづくりでもできないかと思っています。アップルが表裏全面スクリーンの特許を取得というニュースがありましたけれど、こういう技術もいろいろな人にいじくってもらってこそ進化していく。iPhoneだって、これだけ沢山使われているから良さが出てくるわけです。これって製品の発売前からできるのではないかと思うんです。企業で始めているところもあるかもしれないけれど、それを本気でやっている大手の家電メーカーはまだないですね。

 これをやれば、ものの作り方、周りからの評価の受け方がぜんぜん違うはずです。今、作り手と受け手の境界はすごく曖昧になっています。ガレージバンドがあれば音楽を作れるし、アプリも作れるわけですから。

若林  それを企業にも言うんですか?

齋藤  言ってます。でも知財の問題があるんですよね。それが往々にして古い。ではどうやって企業はお金を稼いでいくのか、そこは僕もわかっていないところがあります。BtoB で知財を他社に売って、ということもあると思いますが、そこの問題は大きいと思います。だから無責任には言えないけれど、もう出尽くした出し殻のような知財ってありますよね。Kinectのセンサーみたいに、もう出尽くしたもの、稼ぎ切ったものは、それを公開することで、企業の態度を示せるし、次につながっていくはずです。大手の家電メーカーがこれをやったらすごく新しいと思う。

──続いて、R&Dという仕事がどのように変わってきているか、という部分。その領域が広がっていくからこそ、外の人とのチーム組みが重要になってくるというお話。

若林  齋藤さんのお仕事では広告の話と商品開発の話がパラレルで、そこが面白いですよね。広告と商品開発はどういう位置関係になってるんでしょうか?

齋藤  共通するのは作るということです。両者はその場所の違いです。川の上流なのか、下流なのか、河口なのか、大海原に出たところなのか。ライゾマティクスは基本的にメディアアートで食べられなかった人が集まった集団です。だから面白そうな技術、表現があったら、まずは買って、作ってみようというのが基本スタンスで、そこが共通しています。

 R&Dで商品開発をしていて、5年後、10年後にはここまで小型化する!と言われた時に、R&Dだったらそれをどう作るかを考えるし、広告だったら、それのコアコンピタンスが何かを考えていきます。作ることは一緒で、どの部分で作るかの違いです。

若林  開発と言うけれど、ハードウェアやガワだけでなく、コンテンツや広告まで全部含めたものが開発。そういう時代に入ってきている?

齋藤  開発というのはものを考えて、それをコンシューマーにどう届けるのか、どういう言葉で届けるのか、そこまで全部考えるべきです。今は開発者は開発するだけで、知らないうちに商品は発売されて新聞全15段の広告が打たれている。そうではなくて、自分はこの部分にこだわって1mm削ってこういう設計をした、というメッセージや、そこから、ヨドバシでの展示の仕方、並べ方まで全部考えるべきなんです。

若林  そうすると、開発者というのはものを作るところからどう店頭に置くかまでを考えるわけで、いろいろ考えなければいけないし、感性が必要です。それはけっこう大変ではないでしょうか。上流から下流まで全部見れなくてはだめで、全部ハイクオリティでなければだめ。それをどう教育していますか?

齋藤  踊る大捜査線の室井さんと青島の関係がいい例です。警視庁のヒエラルキーをひた上る室井と現場叩き上げの青島のように、中と外の人が手を組んだほうが、うまい結果になるんです。自分がサードパーティとして開発に関わらせてもらうときは、「ぜったい男にするから、一緒にやろうよ」と説得し、上司と闘う武器を全部渡すので、頑張って戦ってもらって、社内で上がっていってもらいます。お客を男にするんです。大企業になればなるほど時間がかかりますが、今、5年ぐらいたって、撒いた種が発芽し始めていると思います。

若林  齋藤さんは青島さんなわけですか?

齋藤  もし室井さんが社長になったら、僕は新しい企業を作りたい。自分は室井さんにはなれないですね。自分の会社は社会不適合者の集まりなので(笑)

──このあと、こうしたオープンな開発やものづくりが求められる時代に、一人一役の時代は終わって、一人二役以上できることが大切になってくる、そうじゃなければ社会で使い物にならない時代になっている、という刺激的な「Future of Work」の話が続いたのですが、それはWIRED.jpさんのレポートに期待しましょう!

TEXT BY MICHIAKI MATSUSHIMA

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