“渋谷発ものづくり革命”を世界に発信する「シブファブ」デビュー

取材記事 2013.02.19
 言われてみれば確かに、『MAKERS』が刊行されメイカームーブメントが日本に上陸してからこのかた、オフィスがある渋谷の宇田川町から徒歩で打合せに向かうことが圧倒的に増えた気がする。

 オフィスのお隣にはco-lab渋谷アトリエがあり、電子工作機器を使わせていただいたり、3D CAD講座を開いていただいたりしている。その中にはFabLab渋谷が入居していて、クリス・アンダーソンが来日した時には3Dプリンタで制作したものをお借りしたりと、ご近所付き合いをさせていただいている。

 道玄坂を登ればそこにはクリエイティブカルチャーとメイカームーブメントを橋渡しする聖地FabCafeが毎週のようにものづくりシーンを活気づけるイベントを開催していて、その上階の3DスタジオCUBEには、人物用3次元スキャナーからプロ向け3Dプリンタまで、メイカー垂涎の機器が揃っている。『MAKERS』に推薦の言葉を寄せていただいた小林弘人さんのインフォバーンはそのすぐお隣だ。

 そこから246沿いに道を下って登ればクリス・アンダーソン来日を実現させたWIRED誌を刊行するコンデナストさんがある。僕がArduinoの入門講座でお世話になったTokyo HackerSpaceは渋谷のアップルストアの目の前。そしてその公園通りから宇田川町に降りてくれば、そこにはDIYの聖地、東急ハンズがある。

 つまり、「若者の街」という渋谷の表層的なイメージの奥で、メイカーズたちの拠点がここ渋谷に集積しつつあるのだ。この「場」としてのムーブメントの力を解き放つべく立ち上げられたのが、“メイカーのためのアライアンス・メディア”である「シブファブ」だ。発起人は株式会社エージーリミテッドの飯野健一さん。同社が製作・販売するアプリ連動のイヤホンアクセサリーブランドPinaは、Yahoo! JAPANインターネット・クリエイティブアワード2012の一般の部スマートデバイスアプリ部門でシルバーを受賞するなど、日本で注目される“メイカー”だ。


シブファブ発起人の飯野健一さん(左)と、同じくエージーリミテッドの藤澤香世さん

 僕が飯野さんから初めて「場としてのメイカームーブメント」について聞いたのは、去年の年末に行われたEDGE TOKYO DRINKSのトークセッションの場だった。渋谷という自由なカルチャーの気風を受け継ぐ街で、クリエイターやものづくり拠点、メディアや技術者や投資家がマッシュアップされていくようなムーブメントを作り出せるのではないか、というその提言が非常に印象的で記憶に残っていた。

 それからわずか2か月足らずで、渋谷発のヴィジョン・シェアリング・プラットフォーム「シブファブ」が立ち上がった。代々木競技場第一体育館で行われた、ファッションとデザインにおけるクリエーターの国際合同展示会「rooms 26」での華々しいデビューだ。



roomsは代々木体育館で行われ、バイヤーが全国から訪れる一大イベントだ。

 プロダクト・エリアにブースを構えたシブファブは、「シブファブ宣言」を高々と掲げ、3Dプリンタといったデジタル工作機器のディスプレイと共に、それらで製品を作る6組のメイカーズが展示を行った。



シブファブのブースに展示されたデジタル工作機器と「シブファブ宣言」


01 astro-ornament
Maker: FabLab Shibuya
NASA が公開しているデータベースから太陽系惑星の位置情報を取得し、ユーザーが入力した「日時」の位置を自動的に計算して、オリジナル形状のリングをつくる「astro-ornament.app」と3Dプリンタを結びつけた、“その時”を形にしたブレスレット。




02 Carton
Maker: Fuyuki Shimizu
段ボールを使った財布のブランド。段ボールにもともと施されたグラフィックを活かし、使い込むと味が出る一点物。日本全国のセレクトショップを始め、海外のショップでも展開している。





03 Flat Packables
Maker: Yu Ito
一輪挿しやキャンドルホルダーなど、日々の生活に彩りを添える小物をレーザーカッターで製作。アイテムの素材には間伐材でできているシナ合板を使用し、仕上げにも天然の蜜蝋を使っている。折りたたむとコンパクトになるなど環境にも配慮したデザイン。





04 Glitch Fabricase
Maker: Nukeme
コンピュータ刺繍ミシン用の刺繍データのバイナリを書き換え、ミシンの針の動きを直接グリッチさせたシリーズ。Maker Fair Tokyoでの“MAKE”Tシャツを覚えている方もいるかもしれません。データは壊れているけれど、なんとかミシンが動いてくれる、という状態を意図的に作っています。




05 Pekone Light
Maker: Sunao Hiruta / Shizuka Nakamura
ペーパーコネクトユニット玩具「ペコネ」を組み上げた照明で、アルキメデスの立体の一つである五角六十面体の形をしています。正多角形からなる幾何学的な美しさをLED の光により省電力で楽




06 Pina
Maker: Kenichi Iino
そして前述のPina。今回は透明基板とゴールドでエレガントにデザインされたイヤホンアクセサリーが展示されていた。




 こうした作品は3Dプリンターやレーザーカッター、デジタルミシンといったデジタル工作機器を使ってプロトタイピングされたものだ。そしてどれも実際に販売されている。一人ひとりのメイカーたちが自らのアイデアと信念で“ものづくり”を行い、それを世界に向けて発信・販売する。こうした動きの先に見えるものはまさに、クリス・アンダーソンの言う「モノづくりの民主化」に他ならない。製造業の敷居が圧倒的に高かった時代の、既存の製品に満足しなければならない時代は再び終わりつつある。

 そのことを顕在化させるかのように渋谷の地に結集したシブファブの面々。発起人の飯野さんは言う。「例えばニューヨークのブロンクス。「make some noise!!」(声をあげろ)と叫んだその魂は、HIP HOPのビートで世界を揺さぶり、世の中を変えるムーブメントになった。ならば、「make some goods!!」(自分がよいと信じるものを作る)。大量生産の“消費者”では、終わらない。僕たちにも、できるはずだ」

 誰もがメイカームーブメントに参画できるということの意味は、もはや僕たちはただの大量生産/大量消費時代の消費者ではないということであり、こうしたメイカーたちを支持することで一人ひとりが「モノづくりの民主化」を加速することができることだ。「僕たちの、僕たちによる、僕たちのための、ものづくり革命」。今、渋谷の地から聞こえてくる「make some goods!!」の大合唱は、日本発メイカームーブメントをカルチャーや社会的ムーブメントにまで広げていくことになりそうだ。

TEXT BY MICHIAKI MATSUSHIMA

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