「Made in 石巻」にメイカームーブメントの〈希望〉を見た
「Made in 石巻」にメイカームーブメントの〈希望〉を見た
編集長に借りたウクライナ製ガイガーカウンター
放射線量の測定については、MITメディアラボ所長の伊藤穰一氏らが震災後1週間で立ち上げ、世界規模のガイガーカウンターのネットワークをつくり、福島第一原発事故の状況についても政府に先駆けて詳細で膨大なデータを提供・共有し続けるSAFECASTの先駆的な取り組みはあまりにも有名だろう。
一方で、当事者になればなるほど、まずは身の回りの現実を「自分で測定したい」と思うのも、とても自然なことだと思う。「Radiation-Watch.org」は、そんな僕たちの思いを震災後真っ先に汲み取って、一般のユーザーが使えるような、安価でアクセスが容易で高性能なスマート放射線センサー「ポケットガイガー」を開発・配布している非営利プロジェクトだ。FRISKのケースに入ったガイガーカウンターのことを、メディアでご覧になったことがあるかもしれない。
ポケガとFRISK
というわけで僕もこの前、Make: Ogaki Meetingにおじゃました際にradiation-watch.orgさんのブースでさっそく買って来た。超高感度版のType4で、通常は6,450円のところ、会場割引価格で4,000円程度で購入。ちなみに元編集長が購入したウクライナ製は震災直後の最高値だったこともあって6~7万円したというから、価格差は歴然としているのがおわかりだろう。
ボックスを開けるとクールなデザインのシルバー本体とコードのみでいたってシンプル
iPhoneにつなげて測定開始、2分ほどで放射線量の数値が安定する
でも、このポケットガイガーカウンター(通称ポケガ)がスゴイのは価格競争力だけではない。
コミュニティ
プロジェクトの運営は、主にボランティアの匿名スタッフと、世界各国の専門家による技術サポートによって支えられている。都内在住のエンジニアを中心に、公開されている機関、組織としては大学共同利用機関法人・高エネルギー加速器研究機構(KEK)、東京大学大学院農学生命科学研究科、オランダ国立計量局などが挙げられている。つまり、さまざまなスキルを持ち意欲がある人々のコミュニティがこのプロジェクトを支えているのだ。フェイスブックのグループも役立ったそうだ。
クラウドファンディング
資金源は基本的にはポケガの売上のみで、初期の費用はプロジェクトメンバーによる持ち出し(後に回収)の他に、クラウドファンディング・サイトのキックスターターで世界16カ国から167名の投資者を集めている。もともと非営利であり、製造コストもギリギリまで削減するようさまざまな工夫がされているが、こうしたクラウドファンディングを併用する手法はMakersも見習えるだろう。
オープンソース
Radiation-Watch.orgではプロジェクト当初から、インターネット上のブログやフェイスブックに、プロジェクトの概要や回路図、進捗状況を公開しており、そのことで国内外の専門家から多くのアドバイスを得られたという。ポケガはオランダ国立計量局の認証を取得しているが、これも先方の担当者の方から最初にコンタクトがあったのだという。また、ポケットガイガーに関する実験データ、設計図や外部接続資料といった技術資料は、オープンソースの情報として随時公開されるほか、100万地点を越える一般ユーザーによる測定データも、ビッグデータとしてシェアされ、活用される。
まさに、メイカーズに欠かせない3つの手段を使いこなしたプロジェクトとして、僕達には見習うべきところが多々ありそうだ。加えて、製造と個体検査はすべて宮城県石巻市の工場で行なわれ、「Made in Ishinomaki」を謳っているところが最高にかっこいい。日本におけるメイカームーブメントのひとつの課題は、国内に蓄積する膨大な製造力や技術力を、いかにメイカー発(つまり、企業ではなく個人やこうしたプロジェクト発)のプロジェクトとマッチングさせていくかにあるだろう。「メイカームーブメントって言ったって、それで雇用はどうなるの?」という疑問への答えも、ここらへんにあるはずだ。
最近では、これまで培った放射線検出回路の設計・生産技術を応用した組込システム向けの汎用放射線検出モジュール「ポケットガイガーType5」がリリースされている。ぜひ、ポケガの紹介VTRを見て、この日本発メイカーズを応援していただきたい。
【サイト】「Radiation-Watch.org」のサイトはこちら
【参考】東洋経済オンライン:3000円台の低価格で注目の放射線測定器、開発は個人ボランティア、専門家・企業が「儲け抜き」で協力
TEXT BY MICHIAKI MATSUSHIMA