企業とクリエイターのコラボにみるメイカームーブメントの未来とは?~青フェスに行ってきたゼ!! 【前編】
企業とクリエイターのコラボにみるメイカームーブメントの未来とは?~青フェスに行ってきたゼ!! 【前編】
そんなときに知ったのが、LIGHT BOX STUDIO AOYAMAで開催された株式会社FEEL GOOD DESIGNが主宰する「青フェス(AOYAMA MATERIAL FESTIVAL)」というイベントだ。青フェスでは、クリエイター向けに14社の素材、加工メーカーによる、素材サンプルの展示が行われるらしい。「おぉ、これはさまざまな刺激で溢れかえっているに違いない!」ということで、行くことに決めた。
青フェスのリリースにはクリエイター向けに「各素材の作り手がサンプルを手に説明。デザインのヒントが必ず見つかる! サンプルを見て、技術の話を直接聞いて、理解、交流を深めてみませんか?」と記されている。
クリエイターと素材の加工メーカーが相互交流するというだけあって、若い人と企業人で会場は熱気に溢れていた。
大混雑の会場(中央に吊るされているのは素材サンプルの一部)
クリス・アンダーソンは『MAKERS』の中で次のように記している。
ウェブのおかげで、人は教育や経歴にかかわらず、能力を証明することができる。また、グループを作り「本業」かどうかに関係なく、企業の外で協力することが可能になる。そして、こうした非公式の組織には地理的な制約がほとんどない。(P192)
会社はより小規模にバーチャルにカジュアルになる。参加者の大部分は社員ではない。彼らは、所属意識や義務からではなく能力と必要性に従って離合集散する。最高の人材がどこにいるかは関係ない。プロジェクトが面白ければ、そこに最高の人材が集まるのだ。(P195)
クリスは、ビル・ジョイの「いちばん優秀な奴らはたいていよそにいる」という言葉を引きつつ、企業内部だけでなく、さまざまな人々とチームを作り、コラボレーションしていくことの重要性を説いている。
クリエイターと企業の相互交流をめざす青フェスには、個人のインディペンデントなもの作りと既存の製造業のコラボレーションを引き起こす、新しいチームのあり方を知るためのヒントが隠されているかもしれない。
早速、各企業の展示ブースをまわってみた。
コラボレーションの場としての青フェス
まずは株式会社 室島精工さんのブースに行ってみた。石川県かほく市にある室島精工さんはオリジナル樹脂製品を製作している企業だ。樹脂製品の金型の製作から、成形、切崩加工も行っている。自動車のボディーカラーサンプルや携帯電話用カバーなどの製品を展開しているそうだ。
ブースでは「塗装レス射出成形品」のサンプルが展示されていた。
通常、樹脂製品は成形加工したあとに、塗装を施す。しかし、塗装レス射出成形技術によって塗装を施すことなく、成形加工のみで、これまでの塗装(カラー+クリア)を施した質感を再現した。塗装工程が不要なので、コスト削減になり、塗装処理に用いる溶剤等を使用しないため、環境にもやさしい技術だそうだ。
高級感あふれる光沢をもつ素材サンプルである。
塗装レス射出成形品
ブースにいらっしゃった室島専務に、なぜ今回の青フェスに参加したのか伺った。 室島専務によると、最近ではOEM(他社ブランド製品の製造)だけでは厳しく、自社ブランド製品の開発にも力を入れているという。そうしたときに、メーカーとして製造力はあるが、販売力とデザイン力で競争力を持つのは厳しい。そのため、今回来場したクリエイターの方々をはじめ、ほかの部分で優れた人たちとチームを組んで仕事を必要がある。コストを下げるだけでは、海外企業に勝てないし、もっとクオリティーの高い製品をめざしていきたいと仰っていた。
「3Dプリンタを活用されていますか」と聞くと、「金型から自社で製造しているため、わざわざプロトタイプを作るツールは必要ない」という。「もし、チャレンジングなプロトタイプを作ってみたいと思ったなら、3Dプリンタを持っている仲間がいるから、彼らに声をかけるよ」と仰っていた。
次に、有限会社カドワキコーティングさんのブースに行ってみた。
カドワキコーティングさんはプロダクト製品の試作やカラーサンプルを中心に、カスタム品の粉体塗装(パウダーコート)を行っている企業だ。粉体塗装とは、モノの表面を液体でコーティングする液体塗装と異なり、塗料として粉体を用い、これを静電気力によって付着させた後に高温で溶融して固定する手法である。カドワキコーティングさんは、個人向けカスタム自転車や、信号機の塗装なども手掛けているらしい。その粉体塗装の強度はフジテレビの番組「ほこ×たて」でも取り上げられた。
粉体塗装の美しい素材サンプルがブースに並べられていた。
素材は色だけでなく、質感もそれぞれ違った表情を持つ。
案内をしてくださった矢代さんにお話を伺うと、新しいニーズの発掘のため、こうした展示会には積極的に参加されているという。展示会で刺激を受けて、実際に製品の開発に活かす場合も多いようだ。ライン行程で大量生産を行う製品もあるが、その中に一部手作業を入れて、個人プロダクトのリペア(塗装)やプロトタイプの制作に取り組んでいるらしい。新しいものにも、どんどんチャレンジされている。
来場していたインダストリアルデザインを研究する大学生と、その先輩(新卒社会人)の方に、展示の感想を聞いた。大学での研究は現在、実践されているプロダクトデザインの分析が多く、今回の展示はとても新鮮だったという。自分のデザインの選択肢(素材)と、新たな発想の種が多く、勉強になったそうだ。これからのメイカー(新しい作り手)にとっても、新しい発見があったに違いない。
そして、夜はデザイナー、プロデューサー、アーティスト、各分野で活躍するゲストスピーカーを招いてのトークセッションが開催された。 その模様は後編で記そう。
※後編は11月28日(水)公開予定
TEXT BY AMANO KEI