企業とクリエイターのコラボにみるメイカームーブメントの未来とは?~青フェスに行ってきたゼ!! 【後編】

取材記事 2012.11.28
  前編でお伝えしたとおり、「青フェス(AOYAMA MATERIAL FESTIVAL)」で行われた「日本のものづくりとCMFの未来」と題したトークセッションを聞いてきた。

 CMF とはものの表面を構成する COLOR(色)MATERIAL(素材)FINISHING(加工)を意味する。欧州では既に20年前から確立されている分野で、プロダクトの素材や質感のデザインを行うために、重視されてきたものらしい。

 今回のイベントの主催者である日本で唯一のCMFデザイン事務所、株式会社FEEL GOOD cretion 代表取締役の玉井美由紀氏がホスト役を務めた。


株式会社FEEL GOOD cretion代表取締役 玉井美由紀氏

 そして、デザイナー、プロデューサー、アーティスト、各分野で活躍するゲストスピーカーが登壇した。
 まずは登壇者の自己紹介から始まった。

地場産業を地道に育てる:CEMENT PRODUCE DESIGN


 最初はCEMENT PRODUCE DESIGN LTD.代表取締役金谷勉氏によるプレゼンテーションだ。


CEMENT PRODUCE DESIGN LTD.代表取締役金谷勉氏

 CEMENT PRODUCE DESIGN LTD.は自社プロダクトを企画、生産、流通にまで展開し、国内の地場産業にある技術を活かしたもの作りに力を入れている。たとえば、国内シェア90%を占める、福井鯖江市にあるメガネ素材加工メーカーとの共同開発を行った Sabae mimikaki という商品がある。カラフルで独特な質感をもつ眼鏡用素材「セルロースアセテート」に、先端部にアレルギーがない、錆びないチタンを組み合わることで、バネのように弾力のある耳かきを開発したそうだ。他にも、富山高岡にある鋳物メーカーとの協業プロダクトである Stand Accessories や福井のリボンメーカーの協同により実現したリボンプロダクト SEE OH! Ribbon などがある。自らのデザイナーとしての経験をもとに、さまざまな商品展開を行っている。

参考:greenz.jp ホームラン狙いではなくバントで一点を確実に!自分の足で立てる地場産業を育てる「CEMENT PRODUCE DESIGN」 [インタビュー]

高いクォリティーで海外にも展開:リーフデザインパーク


 続いて、リーフデザインパーク株式会社の本多恵三郎氏がプレゼンテーションを行った。


リーフデザインパーク株式会社本多恵三郎氏

 リーフデザインパーク株式会社は家具、インテリア、プロダクトやアートワークと展開の幅が広く、専門のアーティストや職人と連携することで、クオリティーの高いサービスを展開している企業だ。2009年からイギリスを拠点とする家具メーカーDe la EspadaよりLeif.designpark Brandを展開するなど、海外企業とも仕事をされている。
 本多さんは2011年、各国のELLE DECOR編集長が選ぶYoung Talent of the Yerarにも選出されている。

アーティストのクリエイティブワーク:狩野グラススタジオ


 そして、狩野グラススタジオ主宰の狩野智宏さんが説明を行った。


狩野グラススタジオ主宰 狩野智宏氏

 狩野さんは、アールヌーヴォー期に多くの作家が手掛けた幻の技法、パート・ド・ヴェールによる独創的な作品で数々の賞を受賞しているガラス造形作家である。コミッションワーク(依頼制作による恒久展示のアート作品)にも参加し、数多くの公共建築やホテルで、美しくも大胆な作風のガラスアートを発表している。
 名前でお気づきの方もいらっしゃるかもしれないが、室町時代から江戸時代にかけて活躍した日本最大の日本絵画の画派「狩野派」の系譜、狩野友信を母方の曾祖父に持つお方だ。

チーム・コラボレーションの場を演出:春蒔プロジェクト


 最後に、春蒔プロジェクト株式会社 代表取締役の田中陽明さんがプレゼンテーションを行った。既にこのサイトではおなじみ、コラボレーション・オフィスco-lab主宰の田中さんだ。co-labについて、詳しくはこちらの記事を参照されたい。


春蒔プロジェクト株式会社 田中陽明氏

技術よりサービスを


 簡単な自己紹介のあと、ディスカッションが行われた。


 特に、印象的だったのは、これからのデザイナーやクリエイターは、デザインという技術だけではなく、サービスを提供するという視点を持つべきだという議論がなされたことだった。

「国内の大手メーカーの業績が厳しい中、広告代理店からデザイナーへの仕事の発注は減ってきている。企業からの仕事の受託だけでは限界があるし、今後、デザインができるだけではアドバンテージにはならなくなるだろう。適正価格や販路の開拓など、市場全体を見据え、技術とデザインのバランスを取りながら、ものを作っていくことが重要になると思う。そのため、CEMENT PRODUCE DESIGNは自社プロダクトを企画、生産、流通にまで展開している。デザインだけではなく、お客さんにどのような体験をしてもらえるかという、サービスの視点を持つことが大切になってくるのではないか。」(金谷氏)

「6年前から海外のメーカーとも仕事をしている。海外では意匠設計という技術だけでは評価されない。流通の結果まで、評価される。たとえば、海外には成績発表会のような制度がある。メーカーの社長からデザイナーが呼ばれ、売り上げ成績が伝達される。「あなたは6位です。」という具合に。順位や成績が悪ければ、その後の取引はなくなる。そのくらい海外メーカーは、デザインをシビアにみているし、デザイナーもただの仕事の受託ではなく、消費者にどう使ってもらかということまで求められているのかもしれない。」(本多氏)

「本当に自分が作りたいものは、多分売れないものだ。そういった作品は、ギャラリーで公開する等、自分のためにやっていけばいい。ただ、コミッションワークではメーカーからの要望が優先される。クライアントとのキャッチボールは必要だし、そういう意味では、私の仕事もサービス業と言えるかもしれない。」(狩野氏)

 クリス・アンダーソンはいみじくも「僕らはみんなデザイナー」と記したが、デザイナーは技術だけではなく、サービスも視野に入れなければならないという議論は、デジタルファブリケーションによって、だれもがアイデアを実際にデザインすることが可能になった時代を見越しているといえるかもしれない。

 そして、コラボレーション・オフィスを展開する田中さんは、このような議論を受けて、次のように述べる。
「個人同士や個人と企業がコラボレーションして、サービスを展開していくということに、すごく可能性があるのではないかと思う。co-labでも畳職人の方々と所属するメンバーが協同して「TATAMO! これからの畳をつくるプロジェクト」に取り組んでいる。このチームコラボレーションのムーブメントに期待をしている」(田中氏)

 セッション終了後、出展されていたカドワキコーティングの矢代さんにお話しを聞くと、「クリエイターのみなさんのご意見は、どれも斬新なアイデアで刺激になったし、出展者同士の対話の中にも、多くのヒントがあり、充実したイベントだった」と言う。やはり、「青フェス」自体もコラボレーションを生み出す場として、機能していたのだろう。

 しかしながら、デザイナーやクリエイターと企業がコラボレーションして、サービスを展開していくのは、そう容易いことではない。金谷さんに挨拶に伺うと、「言うのは簡単だけど、サービスとして展開して行くのは、もう本当に大変だった」と仰っていた。これもメイカームーブメントの現実の一側面かもしれない。

 今回の青フェスでは、メーカー、クリエイターとさまざまな立場の方から、刺激的な意見をいただいた。
 この場でのコラボレーションによって、魅力的なプロダクトが出てくることを期待したい。

― 完 ―


TEXT BY AMANO KEI

おすすめだz!!