オライリー・ジャパン田村氏の『Make:』日本語版への思い 【前編】
オライリー・ジャパン田村氏の『Make:』日本語版への思い 【前編】
『Make:』は米O’Reilly Media, Inc.がアメリカで創刊したテクノロジー系DIY工作専門雑誌でMAKER MOVEMENTの源流であり本家本元である。現在、オライリー・ジャパンさんが『Make:』日本語版を刊行している。 『Make:』日本語版編集部は、当サイトとしても一度は、ぜひともお話しを伺わなければならない存在なのだ。
『MAKERS』でも描かれた本家アメリカのムーブメントが日本でどのように受容されてきたのかを知るためにも、MAKER MOVEMENTを日本に伝えてきた大先達のお話は貴重だ。今回、「日本のMAKER MOVEMENT」に迫るべく、日本料理屋を会場に選んだ。
『Make:』編集部はこれまで、Make:Tokyo Meetingという日本のMAKER たちのためのイベントを開催してきたが、今年は、Maker Faire Tokyoと名前を変えてイベントの規模を拡大するという。まずは田村氏にMaker Faireの話から聞いてみたゼ!!
田村英男(タムラ・ヒデオ)
株式会社オライリー・ジャパン、『Make:』日本版編集担当。これまで開催されてきたMake: Tokyo Meeting、そして今年開催されるMaker Faire Tokyo 2012といったMAKERのためのイベントを主催。
『Make:』日本語版編集担当田村英男氏
- これまでMake: Tokyo Meetingとしていましたが、今回Maker Faire Tokyo としたのは、なぜですか。
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本家のアメリカでは、『Make:』誌の主催するイベントをMaker Faireと称していたので、それにあわせようと思いました。海外ではこれまでの日本のMake: Tokyo MeetingもMaker Faireと呼ばれていたので、名前にはあまりこだわっていません。ただ、名称変更に合わせたリニューアルを行い、来場者のみなさんから入場料をいただくことで、イベントの継続性を担保して、MAKERのコミュニティにしっかり還元させたいというのはありました。
- 運営体制がこれまでと違うのでしょうか。
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運営体制は同じです。オライリー・ジャパンが主催しています。ただ、これまで外部の協力スタッフの方にご無理をお願いすることが多かったのですが、きちんと入場料もとって、イベントとして成立させたいということはありました。ここ数回は、東京工業大学の体育館をお借りしていて、とても楽しかったのですが、イベント会場では無い場所でしたので、トイレの数が足りないとか電源がないとか、さまざまな課題がありました。
特に、電源に関する話は一晩話せるくらいのドラマがあります(笑)。普通の体育館に自分たちで工事現場用の発電機を持ち込んで、出展者のかたがたに電源を提供するということもやっていたんです。ですが、そういうやり方は限界があるなと思っていました。
- 電源を供給するということも一大タスクになっているわけですね。
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そうです。まずは体育館の床にシートを敷いて、イベントの2日間のために配線を整備していました。ドラムが焦げてしまい、すごく臭いのに、どのドラムがこげているのか分からなくて、あたふたしたこともありました。出展者の方も来場者の方を楽しませようとしてさまざまな仕掛けをご用意くださるのですが、電源問題は難しい問題ですね。
- やはり、電源にはかなり気を遣っていらっしゃるんですね。
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一時期、twitterと連動したコーヒーメーカーが流行ったんですよね。そのときは、もう大変で。
- 出来上がると、つぶやくやつですか。それ最高じゃないですか。自分も出来たのが分かるし、まわりの人もすぐに集まれるし。
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面白いですよね。でも、これがめちゃくちゃ電力を食うんです。だから、twitter連動コーヒーメーカーが流行ったときは魅力的なプロダクトだったのに禁止せざるを得ず、辛かったです。
そういう意味では、今回日本科学未来館さんで開催させていただけることになったので、出展者のかたにもいろいろな面で快適に出展していただけるようになるのではないかと思います。ちょうど、アメリカ以外の国でもMaker Faireが広がりつつあるので、良いきっかけになるかなと思います。
- Maker Faireはヨーロッパやアジアでも展開されているんですか。
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ヨーロッパだとイギリスのニューカッスルで何度かやっていて、来年も開催するはずです。アジアでは、中国と韓国とシンガポールでやると思います。
とても優しい『Make:』編集部のみなさんがお土産に下さったMAKER’S NOTEBOOK。今回は特別にMaker Faireでも販売されるそう。普段は米O’Reilly Media, Inc.のみの扱いだそうだ。めちゃくちゃ、クール!
- イベントとして、こんな人に出展してもらいたいというのはありますか。
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楽しんで自分の作品を作って、その情報を積極的にシェアしていく方であれば誰でも歓迎です。ただ、言っていることと矛盾してしまうのですが、今回のMaker Faire Tokyo2012では、多数の出展申し込みをいただいているにも関わらず、お断りせざるを得なかった方々もいらっしゃって、とても申し訳なく思っています。
- アイデアを積極的にシェアして、応募になるべく制限を設けないというのはまさにMAKER MOVEMENTの精神ですね。
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そうですね。『Make:』日本語版の創刊号を出したときも詳しい人から、回路やソースコードが汚いというご指摘をいただきました。ヘッドフォンアンプの回路が美しくないというような。ただ、作りたいものがあって、それを実現したいという高いモチベーションがあれば、そのプロセスは多少乱暴であってもよいと思います。作りたいものがあって、それを作るためにその人がどういう手立てを使ったのかというのは様々なプロセスがあるでしょうし、最適な解があるからといって、必ずしもそれに置き換えたくないという思いがあります。同じものを作るにしても、いろいろ方法があるでしょう。もちろん『Make:』で提示した方法が正しいと思っているわけではないですし、選択肢のひとつと捉えていただければと思いますね。技術的な正しさだけを追求したくはないんです。
手前味噌で恐縮ですが、ちょうど、今月発売になる『Make:』日本語版12号に掲載されているフィリップ・トロンの「禅と物作りの技」という文章が素晴らしいんです。はじめはみんな素人なのに、みんないつの間にかエキスパートになる。そして、エキスパートは自分が間違っていることを恐れるようになっていき、だんだん挑戦もしづらくなって、失敗もしづらくなってしまうという。ただ、MAKERにとって、大事なのは何にでも挑戦するマインドじゃないですか。エキスパートでありながら、初心者の心を持ち続けること、たくさん挑戦し失敗もするんだけど、そこから学び続けることの大切さを綴っています。
- それこそ、MAKERの心構えの部分ですね。
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クリス・アンダーソンの『MAKERS』ではメイカームーブメントの社会的な影響が記されていましたが、われわれはもっと、楽しんでものを作りたいという、ものを作っている人の気持ちの部分を大切にしていきたいということはありますね。
※Maker Faire Tokyo 2012は12月1日2日、日本科学未来館にて開催中。
後編に続く
TEXT BY KEI AMANO