僕らのFabLife!~MAKER MOVEMENTにみるソーシャルファブリケーションという未来 田中浩也×イケダハヤト 【後編】

インタビュー 2012.12.25
 前編では田中浩也氏の著した『FabLife ―デジタルファブリケーションから生まれる「つくりかたの未来」』(オライリージャパン)についてのイケダハヤト氏の感想をきっかけとして、文化、雇用、コミュニティなどの観点から、パーソナルファブリケーションの可能性について議論が交わされた。
 後編では田中氏が監訳を務めた、FabLabの生みの親であるニール・ガーシェンフェルドの『Fab ―パーソナルコンピュータからパーソナルファブリケーションへ』(オライリージャパン)の世界を読み解きつつ、トークが始まった。

(2012年11月22日 於 東京ミッドタウン)

プロフィール

田中浩也(タナカヒロヤ)
1975年生まれ、慶應義塾大学環境情報学部准教授。2010年米マサチューセッツ工科大学(MIT)建築学科客員研究員。経済産業省未踏ソフトウェア開発支援事業・天才プログラマースーパークリエイター賞(2003)、グッドデザイン賞新領域部門など受賞多数。著書に『FabLife ―デジタルファブリケーションから生まれる「つくりかたの未来」』(オライリージャパン)監修に『Fab -パーソナルコンピュータからパーソナルファブリケーションへ』(オライリージャパン)など。新しいものづくりの世界的ネットワークであるFabLabの日本における発起人であり、2011年には鎌倉市に拠点FabLab Kamakuraを開設した。

イケダハヤト
1986年生まれ。ブロガー、ihayato.news編集長。「テントセン」co-founder。NPO支援、執筆活動などを行うかたわら、企業のソーシャルメディア運用のアドバイザリーも務める。著書に『フェイスブック 私たちの生き方とビジネスはこう変わる』(講談社)『ソーシャルコマース 業界キーマン12人が語る、ソーシャルメディア時代のショッピングと企業戦略』(共著、マイナビ)など。新刊に『年収150万円で僕らは自由に生きていく』(星海社新書)がある。

右から田中浩也氏、イケダハヤト氏、司会NHK出版 天野


――田中先生はパーソナルファブリケーションの、どのような点に可能性を感じていらっしゃいますか。

田中  『Fab ―パーソナルコンピュータからパーソナルファブリケーションへ』(オライリージャパン)の中で、ニール・ガーシェンフェルドはパーソナルファブリケーションの目的はひとまず2つあるとしています。1つ目は自己表現としてのものづくりができるようになること。2つ目が地域の問題を地域で解決できるようになることです。
 どちらかというと先進国では自己表現のツールとしての活用がメインになり、一方途上国では地域の問題を地域で解決するということが主眼になるだろうと言われています。
 だけど、僕は先進国でも地域の問題を地域で解決するというような、「ソーシャル」ファブリケーションの可能性もあると思うのです。それはFabLab鎌倉を立ち上げた大きな理由の一つでもありました。地域のコミュニティマネジメントとソーシャルファブリケーションが結びつくと良いなと思います。ただ、そのやりかたは、やはり地域ごとに編み出さないといけないんです。いろんな地域でいろんなアプローチが模索されています。世界で同時多発的に起こっている、こうした動きを知るきっかけとして、『Fab』をお読みいただけるとありがたいですね。


Fab ―パーソナルコンピュータからパーソナルファブリケーションへ
ニール・ガーシェンフェルド著、田中 浩也監修、糸川 洋訳(オライリージャパン)


――実際に、FabLab鎌倉を運営されてきて、周辺に住む方々の反応はいかがでしたか。

田中  FabLabを立ち上げるにあたって、僕自身が考える社会ビジョンを何度も自問自答した上で、ゼロベースから慎重に場所を選んで鎌倉に決めました。鎌倉を選んだのは、地域に職人さんが多く、もともと、ものを作る人が多かったからです。ただし、職人さんの手法はデジタルではなく、完全に手仕事です。鎌倉にFabLabを作ることが出来れば、デジタルと手仕事のうまい組み合わせが出来て、面白くなるのではないかという予感はありました。
 当時、僕は車を買うお金をずっと貯めていましたが、それを辞めてレーザーカッターを買いました。もう車を買う時代ではないと(笑)。
 買った後、「さてみんなで実験しよう」って公開したら、そこら中の面白い人が集まってきて、みんな友達になりました。
 おそらく車買っても、友達100人作れないでしょう。でも、レーザーカッターを買ったら、友達が100人できるんですよ!びっくりでした。

イケダ  素晴らしいですね(笑)。

田中  僕は町のたくさんの人と友達になることができました。デジタル工作機械を媒介に地域で役割を担うことができて、とても幸せですよ(笑)。新しい幸福感をコミュニティの中で作っていきたいですね。スモール・イズ・ビューティフルな生活に憧れがありますし、外国人の訪問滞在も増えました。国際性という意味で言うと、数字一辺倒のグローバル経済とは一旦関係を切って、それとは違う「顔の見えるグローバルな友人ネットワーク」を大切にしたいと思っているのです。彼らは、ローカルを大切にする人々です。

イケダ  本当、そうですよね。『年収150万円で僕らは自由に生きていく』(星海社)という本でも書きましたが、会社員時代、「何のために働くんだろう」って、いつも考えていました。会社が成長をするために働くって言われていましたが、「実際社会の何に役に立っているのだろう」と悩んでしまいまた。ただ、当時も仕事の傍らNPOの支援をしていました。そのときは友達がたくさん出来る感覚が幸せで、豊かで楽しくて。社会問題を解決するために、参加するメンバーのそれぞれがスキルやリソースを持ち寄っていく活動は、自分も勉強になりましたし、とても充実した時間でした。そうした活動を通して、みんなで助け合いながら、実社会のオルタナティブとして、セーフティーネットを作れるのではないか、と思いました。
 これまでは企業がスキルやリソースを独占するかたちでしたけれども、これからは個人がどんどんそれらをシェアしていけば、大してお金を使わずとも生きていけるのではないかと思いますし、僕自身、その可能性を追求したいです。


年収150万円で僕らは自由に生きていく』イケダハヤト著(星海社新書)


田中  昨年、『幸せに向かうデザイン―共感とつながりで変えていく社会』(永井 一史、山崎 亮、 中崎 隆司著 日経アーキテクチュア)という本のインタビューで、「あなたにとって幸せとは何ですか?」というストレートな質問を受けて、しばらく本気で考えてみたのですが、結局胸に浮かんだ答えは「好きなメンバーと一緒にものづくりのプロジェクトをやること」でした。チームラボの猪子さんも同じようなことを言われていたと記憶していますが、やはり自分は「チーム」の創造性が好きなんでしょうね。ロールプレイングゲームのパーティーとか、音楽でいうバンドみたいなものですかね。

 と言いつつ、実は僕には別の野望もあるんです(笑)。僕は初期ジョブズみたいな仕事もしてみたいんですね。

イケダ  どういうことですか(笑)。

表現メディアとしての3Dプリンタ


田中  Appleが30年以上前に作った初期のPCは木で簡易に梱包されていますが、とても無骨な感じなんです。


「Apple I.」 wikipedeiaより


 今のAppleは、コンピューターを、MacBookシリーズのようにデザインを洗練させて薄くしていますし、iPhoneやiPadのようにモバイルで使いやすいものにしています。
 スティーブ・ジョブズは、ギークにしか使えなかったコンピューターを、普通の人が誰でも使えるようにしました。
 今の3Dプリンタも、30年前のMACに似ています。



イケダ  木で出来ていて、アナログな感じが、確かに似ていますね。

田中  いまはまだ、3Dプリンタは一部のギークのためのおもちゃかもしれません。ただ、これを誰もが使えるようにリデザインしていく研究を始めたいと思っています。
 日本には良い工作機械メーカーが揃っているので、素晴らしい工作機械を作る可能性があります。ところが今、工作機械を製造されている方々はジョブズがやったような、ソフトとハードとウェブサービスを三すくみで連携させるという視点が欠けているように思います。僕はそこで貢献できれば、と考えていますし、ユーザーインターフェイスの研究をいかしていきたいと思います。
 工作機械を誰にでも使えるものにすることで、イノベーションを起こしていきたいですね。

――誰でも使えるということは、デジタルが苦手なひとでも簡単に作れるということでしょうか。

田中  いや、“簡単に”というマジックワードは避けたいです。表現のツールとして身近なもの、楽しいもの、嬉しいものにしていきたいんです。筆や楽器のように、それを通じて自己表現をするツールにしていきたいです。
 たとえば、ギターは持った瞬間に誰でも曲を弾けるものじゃないでしょう。その意味で簡単じゃないけれども、練習を繰り返し行うことで、徐々に上達していきます。その課程が楽しくて、嬉しくて、スキルが向上するものだと思います。プロセスが楽しくさえなれば、「難しいか、簡単か」というのはむしろ二の次になります。「意味」とか「やり甲斐」が持続を支えてくれます。
 僕は工作機械を、「喜び」をつくりだす、表現のメディアと捉えていきたいのです。FabLabの「Fab」は「Fabulous(素敵な、愉快な)」でもあるというのはやっぱり大切にしたい感覚です。

イケダ  表現のツールというお考えは、とても興味深いですね。
 僕はいま企業に属さず、インターネットを通して、文章で表現して、それがきっかけで講演のお仕事をいただいたり、本を書かせていただいたりして、何とか生活しています。そういう人間は15年前だったら多分ありえないでしょう。
 僕はインターネットで文章の表現をしましたが、デジタルファブリケーションによって、フィジカルにそれが出来るということですよね。多分これから、実際にものを作って、自分を表現し、生活していく人が増えていくかもしれません。
 15年前って今ほど、ブログやメール、ソーシャルメディアを通して、今のように、自分のことを文章で表現していませんでした。おそらく、それをフィジカルな世界で可能にしてくれるのが、MAKER MOVEMENTなのではないかと期待しています。

田中  ここでFabLab鎌倉が進めているプロジェクトをひとつご紹介します。渡辺ゆうかさんというマネージャーがおりまして、彼女は木が大好きなんです。彼女がレーザーカッターの使い方を覚えて何を作ったかというと、木の木目にあわせて絵を描いた作品です。一枚一枚、木目は違いますから、全部異なるパターンを描くことも可能なんです。



イケダ  これこそ、まさに自己表現ですね。他人にはなかなか真似ができない素晴らしい作品です。

田中  木目からインスパイアされて作った富士山の絵です。 全部違う絵で100枚弱くらい作っています。このように、ひとつひとつ全部、適量生産で作っています。これこそ自己表現ですよね。それも「素材との対話」のなかから導き出されたものです。

 さらに、せっかくの機会ですので、WHILLという僕の大好きなMakerをご紹介します。自分自身のためのもの作りではなくて、自分の大切な人たちのためのもの作りをされている方々です。
 代表の杉江さんという方はもともと日産で車のデザイナーをしていましたが、会社を辞めてWHILLを創業しました。彼には、100M先のコンビニをあきらめてしまう、足に障がいを持つ友人がいて、その人のためにアタッチメント型の車椅子を作りはじめたそうです。昨年の東京モーターショーで展示をされたりして、いまとても注目を集めています。
 また、WHILLはまさにクリス・アンダーソンの『MAKERS』で書かれていたような、企業の中の人材だけではない、だけどフリーだけでもない、独特のチーム編成をしています。大企業を辞めたフリーランスと大企業に残っている方が半々くらいという混成チームです。大企業を辞めるという選択肢もあるし、大企業に残って、もの作りに関わり続けていくという選択肢もある。双方に属する方々が混ざって、横断型のチームを作っているということが、とても興味深いです。「AかBか」だけではない、こういうハイブリッドなやりかたに未来を感じます。



イケダ  MAKER MOVEMENTの多様な可能性を予感させますね。

もの作りに必要な時間というリソース


田中  そうですね。今後もさまざまなチーム編成のあり方が、実践を通して、生まれていくのではないか、と期待しています。
 さて一方で、もの作りに必要なリソースは時間だと思います。だから、学生はMAKER MOVEMENTの中で、とても有利だと思うんですが、学生に聞くと「忙しい」とか言いますけれども(笑)。
 デジタルファブリケーションによって、仮に技術の敷居が下がったとしたら、時間とやる気がある人がこれから、凄いものを作っていくと思いますね。

イケダ  確かに、社会人になると時間はないですよね。
 さきほどのWHILLの事例ですと、これはクラウドファンディングを使っています。『MAKERS』の中でも書かれていますけども、何かを作るための資金調達ですらインターネット上で出来る時代になっています。たくさんの人からクラウドでお金を集めることが出来るということは、個人や小さなチームがものを作るうえで、非常に心強い存在です。
 クラウドファンディングはMAKER MOVEMENTを根底から支えていると思います。そういうカルチャーの発展に期待したいですし、社会人は時間がないから何も出来ないと言っていると、小さなチームの魅力的なもの作りに敵わないかもしれませんね。

田中  あと、これから有利なのは引退した60代後半の方々ですね。最近、僕の父の友人が3Dプリンタを家に買いました。「これからは俺の時代だ」って言って。

イケダ  まさにMAKERですね(笑)。

田中  その方は仕事を引退したので、とても時間に余裕があります。彼は日本がこれから高齢社会が進むと思われるので、高齢者のためのデバイスが求められるはずだと言うんです。そして、自分たちが何を必要としているか分かるから、高齢者のためのデバイスは高齢者が作るほうが良い。だから、「自分のためのデバイスを自分たちで開発する」と言っているんです。こういうニッチ・マーケットから出てくるものは、きっと面白いんじゃないかと思います。

ソーシャルファブリケーションという未来


――最後にお二人はMAKER MOVEMENTのどのような部分に可能性を感じていらっしゃいますか。


右から、田中浩也氏、イケダハヤト氏


田中  大学の教員ということだからではありませんが、MAKER MOVEMENTについて、僕が今日この場でもっともメッセージを伝えたいのは学生です。僕が大学一年生のときは1994年で、いわゆるインターネット元年でした。M先生が、テレビで「これからはインターネットの時代です」と言っていました。「すごいぞ、これは」と思って見ていました。しかも大学生だから、持て余すほど時間がありました。
 野望というと大袈裟かもしれませんが、学生の間にインターネットをガンガンやっておけば、社会に出たときに、先に社会へ出た人が出来ない新しいことを出来るのではないか、という期待が僕にはありました。
 今、インターネット関連は、もう大きな企業がたくさんある状況ではある。だけど、デジタルファブリケーションは、まだすべてが手探りで未知の状態です。
 新しい技術が出てきたときは、時間を持て余している人が有利のはずです。有り余る時間をかけて、たくさん実験的なことをして、たくさん失敗をして、試行錯誤をして、原理や仕組みを身体に覚え込ませ、酸いも甘いも知った人が、その後何十年ものあいだ、この文化を引っ張っていくのだと思うんです。まだ開拓される前の萌芽期には、そういう豊かさと有象無象の可能性があります。学生にはぜひ頑張ってほしいですね。

イケダ  特に僕ら若い人にとっては、経済成長が難しくなっていく中で、どう個人や社会を維持していくか、そしてどのように自分たちの幸せを定義していくかということは、重要な問題になってくると思います。

 ただ、僕らの世代はテクノロジーというツールを持っているので、そうした難問の中の一部を解決できるかもしれません。3Dプリンタは問題解決をリアルに実践していくアプローチのひとつになりうるのではないか、と期待しています。だから、引き続き、新しい情報を追いかけて、僕は文章を通して、そうしたことを実践する人々を応援していきたいです。
 今日は田中先生にお話がお伺いすることが出来て、とても勉強になりました。

田中  こちらこそ今日はイケダさんとお話できて、良かったです。今日はSFCのイベントの一部ですが、慶応大学SFCは、90年代にインタネットベンチャーを輩出して、2000年代にソーシャルベンチャー、いわゆる社会企業家を輩出したと言われています。
 僕は社会企業に「ものづくり」の要素を加えたもの、別の言い方をすれば、「社会的なものづくり」を核としたビジネスがもっと生まれてくれば良いなと考えていて、そうしたことを研究としても先導したいと思い、SFCに「ソーシャル・ファブリケーション・ラボ」を設立しました。イケダさんには、MAKER MOVEMENTの中にソーシャルな文脈を読み解いていただいて、とても嬉しく思っています。
 まだまだ話は尽きませんが、今日はお話が出来て、とても刺激になりました。ありがとうございました。

― 完 ―


TEXT BY KEI AMANO

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