チームラボは生粋のMAKER集団だゼ!! 【後編】
チームラボは生粋のMAKER集団だゼ!! 【後編】
しかし、チームラボのMAKER精神は、どのようにビジネス展開に生かされているのだろうか。素晴らしいアイデアのプロトタイプをビジネスとしてスケール化する秘訣とは。
後編では、発想豊かなプロトタイプのビジネス展開を手がけるカタリストの安達隆氏にお話を伺った。
安達隆(アダチタカシ)
ウルトラテクノロジスト集団チームラボ カタリスト(ディレクター)。チームラボハンガーなどの自社プロダクトを担当。ディレクションを担当した「コレカモ.net」が2010年第2回「日経ネットマーケティング イノベーション・アワード」大賞を受賞。
- チームラボハンガーは、どのようなプロダクトでしょうか。
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ハンガーにかかった服を手に取ると、コーディネート写真や付加情報が店内のディスプレイに表示されるインタラクティブなハンガーです。ディスプレイには、その商品をコーディネートしたモデルの写真や動画、デザインのコンセプトや、機能、素材の説明など、付加させたい情報を表示することができます。
- 動画の中に男性が商品の服を手に取ると、「かっこいい!」「やばい」とディスプレイの女性モデルが声を掛ける様子が写し出されていますが、従来のアパレルショップとは全然ちがう印象を受けます。
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そうですね。チームラボには“New Value in Behavior”というコンセプトがあります。普段、何とはなしに行っているハンガーにかかった商品を手にとるという行為に、新しい価値付けを行いたいと思い、さまざまな試行錯誤を繰り返しました。
また、ディスプレイでのコーディネートや商品付加情報の表示といった商品の魅力を効果的に訴求することのほかにも、店舗という空間を効果的かつ魅力的に演出できるというメリットもあります。商品コーディネートをマネキンのかわりにデジタルサイネージを活用することで、場所をとらないので、たくさんの商品を展開することが出来ます。ネットワークとつながっているので、「いつ、どのアイテムが、何回手に取られたか」といったこれまで人力でしか収集できなかった購買データを自動的に蓄積することも出来ます。海外での反響
- 開発後のまわりの反応はいかがでしたか。
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まず、海外のメディアに注目をしていただきました。Techcrunchで記事にしていただきましたね。「あいつら未来に生きてんな」という感じで、取り上げられていました。
※参考:Techcrunch "Shopping 2.0: Interactive Hangers Used In Japanese Clothes Store (Videos)" 日本語版で翻訳された記事はこちら。 - それはどういう意味ですか。
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そういうネットスラングがあるんですよ。馬鹿にしているのと、リスペクトが混じっているニュアンスがあるのですが、外国人には全く理解できない日本人の情熱や発想に対する反応の言葉です。
チームラボハンガーは技術単体でみると、それほど新しい技術を使っているわけではありません。ハンガーを取るという日常行為を、ネットワークへのインターフェースとして再解釈し、デジタルとつなぐことで、新たな価値付けを行おうと思いました。
この記事でも、”Shopping 2.0”とタイトルに記されているように、「インタラクティブハンガーなんて、お店が未来になるのが凄いぞ」「日本はやばいぞ」と、技術そのものではなく、その行為の意味を解釈する文脈が、とても新しいとされていますね。 - アジアの国からの反応は、いかがでしたか。
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実はチームラボで個展をやってくれないかという依頼を受けて、台湾の国立美術館でチームラボ 「We are the Future(藝術超未來)」展というのをやらせていただき、チームラボハンガーも2ヶ月くらい展示しました。さすがに、女性モデルが「かっこいい!」「やばい」と言っているのはまずいだろうと思いまして、「怒られたら、撤収しよう」と内心思っていたのですが、おかげさまで好評でした。そのときもアートを取り込んで、新しい文脈の中で日常行為に価値を付加するという点を評価していただけたようです。
参考:MSN産経ニュース「日本発、新しい可能性を示すデジタルアート展」プランニング
- チームラボハンガーという企画は、そもそもどのようにして生まれたのでしょうか。
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あるクライアントから「小売の店舗で何かおもしろいことができないか?」という相談を受けたことがきっかけです。 - ざっくりとしたお題ですね(笑)。
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ええ、チームラボではよくあることです。クライアントからいただいた案件について、何か面白い、これまでにない新しい価値をソリューションとして提供したいと考えております。今までにないものを追い求める、非常にカラーの強い会社ですので、クライアントのみなさんも、当社のことをお知りいただいた上で、打診していただいているのかと思います。 - なるほど。依頼を受けて、どのような議論がなされたのでしょうか。
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まず、プロジェクトチームを組んで、どんなアイデアが良いか、議論しました。
弊社ではファッションのECサイトを運用しているということもあり、ただ商品を陳列するのではなく、コーディネートされた服を着たモデルの写真を商品と一緒に掲載した方が、圧倒的に実績が良いということが分かっています。チームでの議論を通して、物理的な制約がないため、大量のコーディネートを掲載できるということ、そしてマネキンではなく、プロのモデルを起用できるというWebならではの価値を、リアルな店舗に持ち込んだら面白いのでは、というアイデアが生まれました。
デジタルの強みとリアルな場を組み合わせて、「来店者の関心に応じてコーディネートを提示する仕組み」を作ったら、面白いのではないか、と考えたのです。>
社内で展示されているチームラボハンガー
- なぜ、ハンガーに着眼されたのでしょうか。
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それは、「気になった服を手に取る」という自然な動作を検知するのに最適だったからです。
タッチパネルを操作する、スマートフォンでバーコードを読み取るなど、新しい動作やリテラシーを要求しませんし、自然な行為の延長線上に新しい価値や意味をあたえることができます。既存の行為そのものに新しい価値や意味をあたえていきたいと考えておりました。 - ハンガーを作ることありきの企画ではなかったのですね。
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そうです。まず提供したい体験があり、デジタルとリアルな世界を結ぶインターフェースとしてハンガーを取るという行為に注目しました。
ただ、最初にクライアントからいただいたプロジェクトは、諸事情により、お蔵入りになってしまいました。そんな折に、「PUBLIC/IMAGE.3D」というスペースで、「何か、展示をしてみませんか?」という依頼をいただき、せっかくだから、インタラクティブハンガーを開発しようという話になりました。
プロトタイピング
- 開発は、どのようにして進めていたのでしょうか。
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当時のチームラボは、現役で電子工作をしている人間がほとんどおらず、製品化を前提とした電子機器の制作経験を持つ者にいたっては、全くいない状況でした。しかも、制作期間は3週間弱しか、ありませんでした。 - そんなわずかな時間で開発されたとは驚きです。
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とにかく期間が限られていたので、エンジニア3名にディレクター1名というメンバーで進めていきました。
ハンガーというハードウェアと、Webアプリケーションの、つなぎの部分を最初に設計し、各メンバーの責任業務を明確化した上で、各モジュールを平行して、開発していきました。小さなチームで完全に分業を敷き、機動力をもって、取り組めたと思います。
とはいえ、初めての試みでしたの、さまざまな壁にぶちあたりました。 - 最も大きな課題は何だったのでしょうか。
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「ハンガーが手に取られた」ことをどのように検知するのか、という部分です。感圧センサ、静電容量センサなど、様々なセンシング方法を検討しましたが、デザイン面、コスト、開発期間などの面から、なかなか適切なものが見当たらず、チームでディスカッションを繰り返しました。
そうした試行錯誤を経て、無事3週間で展示が完成しました。おかげさまでご好評いただけたようで、1週間の予定でしたが、3週間にわたり展示させていただきました。
チームラボ工作室① ここで日夜、さまざまな実験が繰り広げられる。
チームラボ工作室② コードや基盤など、さまざまな道具が揃っている。
- プロトタイピング成功のポイントはどこにあると思いますか。
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「チーム全員が最終アウトプットに関心をもつ」ということだと思います。 スピード感を保つために、小さなチームで、完全な分業を敷いておりました。しかし、作業は分業でも、議論には全員が参加しておりました。ソフトウェアのエンジニアも、ハンガーのデザインについても考えるなど、クオリティの高いプロダクトを作るという目的を共有して、進めました。このようにして、スピードとクオリティを両立させるのが、プロトタイピングの重要なポイントであると思います。 プロトタイプからプロダクトへ
- 現在、実際にチームラボハンガーは商品化されているんですか。
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「PUBLIC/IMAGE.3D」での展示が、おかげさまで好評だったので、アパレル関係の企業から、お声掛けいただきました。現時点で12店舗にご導入いただいております。 - プロトタイプからプロダクト化へ向けて、どのような点を意識されましたか。
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「試作品」から「製品」へと展開するにあたっては、2つのことを意識しました。汎用化と効率化です。
製品展開にあたっては、クライアントのニーズに対して柔軟に対応できるよう、試作品の汎用化を意識する必要があります。せっかく良いものを作っても、「それも、あれも出来ない」ではクライアントのニーズに応えることはできません。より自由な表現を担保しつつも、仕様面での制約を低減させることを意識しました。
また、導入・保守体制と生産・在庫管理フローを整備することで、製造プロセスの効率化をめざしました。1品ものの芸術作品であればともかく、ある程度の大量生産を実現するには、低コストを意識する必要があります。そのための環境を整備しました。
試作品の汎用化と効率化を実現するために、デザインを見直したり、バッテリを変えたり、基板製造と組立を中国の工場に委託したりと、さまざまな改善を行いました。
- プロトタイプをプロダクトにしていくために、ただバージョンアップするのではなしに、さまざまな改善を行うんですね。
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たくさんの角度から、検証します。というのも、プロダクト化を、プロトタイプをスケールアップさせることと考えているからです。つまり、展開の規模を大きくしていくということです。
プロダクト化のゴールを3つのステップで捉えています。まず、クライアントに利益をもたらすのが第一です。それが達成されたら、第二ステップとして、僕らも利益を出そうとします。利益を出すためにも、コストを下げられる改善案は常に考えます。でも、いつもこだわってつくろうとしすぎてコストがかかってしまうので、もっと多くの企業に利用して頂くことで利益を出したいです(笑)
そして、僕らが利益を出すことが出来れば、そこから新しいビジネスにつなげることができ、ゴールとなります。
この流れに叶うプロトタイプでないと、プロダクト化するのは難しいです。また、新たなものにチャレンジしようというプロトタイプと、ある程度の規模で継続的に展開しようというプロダクトでは、そもそも目的が違うということもありますね。
クライアントとともに作る
- ただ、プロトタイピングにチャレンジするのは、難しくはないのでしょうか。仕事で実験って、しにくいじゃないですか。
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チームラボの場合、クライアントさんに恵まれているのだと思います。ほとんどのサービスがBtoCではなく、BtoBでのクライアントワークなのですが、何度もコミュニケーションを重ねて、ニーズにあった企画を練っていきます。実際にかたちになった後も、より良いものを作っていくために、そのやり取りを続けていく場合が多いです。
チームラボとしては、「今までにない面白いものを作りますよ」という姿勢を伝えていくことで、クライアントがもっと良くできそうだと感じた部分は「ここは、もっと面白くできませんか?」と期待して頂き、一緒に考えていけるような関係でありたいです。
果敢にプロトタイピングに挑んでいくには、チャレンジする精神はもちろんですが、受け手と良好なコミュニティを作っていかなければなりません。カタリストとして、私自身、日々がんばらないといけないなと感じている部分ですけれども。 - 今後、さらにハードウェアプロダクトの展開は広げていくおつもりですか。
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チームラボはハードウェアの開発に特化した企業ではなく、クライアントのニーズに応えるため、ハードやソフト、リアルなイベントといったソリューションをジャンルを問わず、提供していきますので、特にこだわりはありません。
ただ、チームラボハンガーのほかにも、メディアブロックチェアや teamLabCameraといった、同時進行している、プロダクト展開のプロジェクトがありますので、これらをうまく育てていければと思います。
これからも、クライアントのみなさんにお力添えをいただきながら、これまでにない面白いプロダクトを作っていけたら良いですね。 -
前編でチームラボのMAKER文化をお話しいただいた高須さん、後編でプロトタイプをビジネス展開する秘訣を教えていただいた安達さん、ありがとうございました!!!
“New Value in Behavior”、「あらゆる産業がアートになる」という、デジタルネットワークとつながったからこそ実現できる、もの作りの魅力についてのお話は、ツールをアナログからデジタルへ置き換えるだけではない、MAKER MOVEMENTの新しい可能性を感じました。
そして、面白いもの、すばらしいプロトタイプを作っても、ビジネスで大きく展開するには汎用化と効率化の角度からの検証をはじめ、然るべきプロセスを経なければならないのだと知りました。そのためにはまず、クライアントとともに良いものを作っていく、プロトタイプを改善していく関係性が築かれていなければならないのですね。
柔軟な発想でもの作りにチャレンジし、プロトタイプを改善して大きく展開していくMAKER精神に圧倒されました。そして、何よりみなさんが楽しそうに自然と取り組まれている姿が、とても羨ましいです。
毎日がMAKER MOVEMENTのチームラボに憧れちまったゼ!!
チームラボのプロダクト展開を担う安達隆氏
― 完 ―
TEXT BY AMANO KEI