デザイニト伊東祥次さんに聞いた、これからのデザインとモノ作り

インタビュー 2012.11.16
無印良品を運営する株式会社良品計画で企画デザイン室長、欧州事務所商品開発担当部長などを歴任。年間1000を超える商品の開発を行ない、日本のプロダクトデザインの中心ともいえるポジションで活躍されてきた伊東祥次さん。独立して2010年にデザイニト株式会社を立ち上げ、現在はco-lab渋谷アトリエの中にオフィスをもち、様々な分野で活躍されています。企業内デザイナーとして見てきたもの、そしてこれからのデザインとモノ作りについて、お話をうかがいました。

伊東祥次(いとう・しょうじ)

1971年東京生まれ。多摩美術大学を卒業後、1997年よりNTT InterCommunication Center [ICC]調査研究・ワークショップ担当、2002年より株式会社良品計画にて企画デザイン室長、欧州事務所商品開発担当部長などを歴任。2009年に独立し、現在は、プロダクトデザイン、プロダクトデザイン・ディレクションを中心に、ブランディング・ディレクション、品揃え立案、商品企画や、商品開発などを行なっている。 受賞歴 2005年、2007年 iFプロダクトデザインアワード金賞 その他、iF賞、グッドデザイン賞など多数
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伊東祥次さん

まず、無印良品で多くの商品のデザイン開発に携わり立場も確立されていた状態で、独立されたのはどうしてなんでしょうか?
枯れました(笑)。
僕が無印に入った頃は、世の中にまだ良質なデザインというものがそれほど普及してなかったと思う。そもそも美大を出た後、インハウス(企業に所属する)デザイナーになるなら自動車メーカーに入るか家電メーカーに入るかしかなくて、雑貨のプロダクトデザイナーになるなんて選択肢はなかった。そんな中で良品計画に入って、そこで企画デザイン室を立ち上げ、毎日たくさんのデザインを監修し、自分でもデザインしてきた。楽しかったし忙しかった。でもデザインを取り巻く環境が変わってきた。世の中いろんなモノのデザインがよくなってきた気がしませんか。良質なデザインが当たり前になってきている。みんなiPadやMacBook Air持って普通に喫茶店で仕事しているし。で、これは僕じゃなくてももっと上手くできる人がいるだろうと正直思った。
一方で、大型家電店とかが従来のビジネスモデルを変えた。安ければいいというだけの価格競争ではモノ作りにお金をかけられなくなる。デザインを取り巻く環境がこのところ大きく変わった気がする。
そんなふうにデザインを取り巻く環境が大きく変化する中、伊東さんは新しくどんなことをしようと思って独立されたんですか。
とにかくひねくれものなので、人と違うことをしていないとダメみたい。だから新しい領域を開拓できたらと思う。これだけデザインが氾濫してても、まだデザインが入り込んでない領域って絶対あるはず。例えばファッションの世界はファッションデザイナーはいるけど、プロダクトデザイナーがいない。だから小物とか小道具とかが、デザインの対象になっていない。これとか(衣服のホコリや糸くずをとるコロコロの試作品を出して)。これもみんなコロコロするたびにシート剥がして捨ててるでしょ。捨てずに済んだらいいはずなのに仕方ないと思って。だからこの試作品は、洗えばまた粘着力が戻る素材でできている。
今はスーツケースのデザインにも関わっているけど、いままで不便を感じても仕方ないと思ってたようなものは、デザインで解決できるはず。ペットボトルの口って本当に飲みやすいの?とか。プロダクトデザイナーがまだ参加していない分野にこそ、新たな領域があると思う。必要なのに気づかれていない分野が面白い。

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糸くずやホコリをとるコロコロの試作品
さきほど「良質なデザイン」という言葉が出ていましたが、どういったものが良質なデザインなんでしょうか?
奇抜なものじゃない。新しければいいというわけでもない。例えばドアノブは、見た目ですぐドアノブだと理解できなければその役割を果たせない。椅子もそう。例え座れる物体でも、それが椅子だってわからなければ誰も座らない。だから見た目でその機能・用途がわかるデザインが良いデザインの一つの条件だと思う。座りたくなる椅子が作れるかどうか。
それと、プロダクトデザインは回答を出すことだ。回答が正解かどうかは、売れるかどうかで答え合わせができると思う。売れるデザインはやはり良いデザイン。無印にいたときはブランド力で、全く売れないということはなかったけど、今はほんとに1個も売れないという結果だってあるかもしれないし、その前に、商品化まで漕ぎ着けるのにもすごい労力がかかる。だからおもしろい。
クリス・アンダーソンの『Makers』では、デジタルファブリケーション・ツールの普及によって、モノ作りの世界に革命が起こるという内容が書かれているのですが、そのあたりについては何か感じていることはありますか。
実際に僕も3Dプリンターを使って試作品を作ることがある。でも正直、コストも時間もクオリティも、まだ手作業のほうが勝ってる。3Dプリンターで造形するよりも、スタッフに手作業で削りだしてもらったほうがクオリティも高いし、コストもかからない。それでもクリエイターは日々、新しい表現、新しい機材、新しい実験はやり続けなきゃいけないと思う。
今は、例えるなら、マッキントッシュが登場した頃と一緒。今と比べるとその頃のマックの処理能力はたかが知れてたし、手で図面引いたほうが楽だった。でも新しい可能性を感じた人たちが使い続けることで、表現の幅が広がり、できることも増えていった。それと同じで、使うことで、これからさらに新しい表現が生まれ、できることも増えていくと思う。機械の性能もどんどんよくなるだろうし。
伊東さんが今取り組んでいることを教えてもらえますか。
さっき、必要なのに気づかれていない場所、まだデザイナーが入っていない分野という話をしたけど、例えば焼き物みたいな地場産業は今、存続の危機にある。残すべき技術や見るべきものがたくさんあるのに。そういう地場産業を復活させる手伝いをしたい。長崎に波佐見焼という焼き物がある。これは3Dプリンターで作った薬味入れの試作品。器だけではなく、焼き物で何ができるか日々考えている。ジュエリーや照明もいいかもしれない。
どうすれば回答が見つかるか。仕事するってそういうことだと思う。人に喜んでもらうために、その回答をいつも悩んで探す。そうそう、NHK出版さんも、本作りしてるんだから、値段下げること考えるくらいなら、質を上げることを考えなきゃだめじゃないですか。自分では60点の回答しか出せないなら、100点を取れる人に頼めばいいはず。企業はそうやってプロデュースにまわれるんだから。僕自身、無印の食器を総入れ替えするとき、自分たちでは無理だと考えて森正洋さん(故人・陶磁器デザイナー)にお願いした。その結果、デザイン的にも売上的にも素晴らしい商品ができた (参考リンク)
100点を取れる人に頼む、それが正しい回答の見つけ方だと思う。コラボレーションすれば60を100にできる。だけど一方で、矛盾しているようだけど、僕も含めモノ作りに関わる人は、100点を取れる人になることを志さないといけないと思う。

DESIGNITO Co., LTD.

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3Dプリンターで作った薬味入れの試作品


(取材後記)
デザインとモノ作りの最前線で長い間活躍されてきながら、まだ新しい領域がある、それが面白いと語る冒険心。伊東さんは間違いなく、日本のメイカーの一人です。そして最後にはNHK出版へのアドバイスまでいただいてしまいました。自分で無理なら100点取れる人に頼めばいい。でも自分が100点取れる人を目指さなければいけない。最後の言葉を胸に刻みました。ありがとうございました!

TEXT BY KOHEI YAMAMOTO

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